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教師は教える職業上「ひとこと」多い、これが保護者とトラブルの原因になることがある

 ある小学校で、子どもが休憩時間中に遊んでいて、ちょっとしたケガをした。ケガは消毒をした後に、やや大きめの絆創膏を貼る程度のもので、医者に診せる必要もなく、保健室の養護教諭もそれで十分と判断して、担任にその旨を伝えた。
 念のためにと、養護教諭が「電話でおウチの方に連絡を入れられるといいですよ」と担任に伝えた。担任は「面倒だなぁ」といくぶん思いつつ、子どもの家に夜、電話を入れた。
 わざわざ電話を先生から頂いたことに、母親が感謝の気持ちを述べ始めたので、担任はつい「たいしたことのないケガでしたから」と言った。そこから母親は、怒り始めてしまった。「たいしたことないって、どういうことですか! 痛い思いをしたのはウチの子ですよ。私は親としてそのことを心配していたんです!」と、電話をガチャーンと切られた。
 余計なひとことだった。うかつといえばうかつ。他意はまったくない。しかし、親にしてみれば「たいしたことあるかないかは、私たちの問題ではないか。先生の方から言う言葉か?」という気持ちになることもあろう。
 その言葉を使ったとしても、まったく何の問題も起こらない場合もある。それは、その保護者と学校や教師に対するイメージや信頼度によって、随分と異なる。
 「卒業アルバム作り直し要求」で、こんなことがあった。アルバムの写真の少なさにクレームをつけてきた保護者に、学年主任と担任が応答して、ほぼ収束しかかった頃に、校長が遅れて同席した。
 校長はそれまでの話の流れを読まずに「僕も卒業アルバムでは一枚しか写っていませんでした」と言ったもんだから、さぁ大変。帰り支度を始めていた保護者が、再び座り直してしまって、第二ラウンドが始まってしまった。
 校長は悪気があって言ったわけではない。しかし、この言葉は「写真の枚数なんてたいしたことはない。それぐらい我慢したらどうだ」と、相手の保護者に受け取られる、不用意なひとこととなるのだ。
 一般的に、教職員は、事態を「誠実にやってきたつもりだ。仕方がないではないか。他にどうしろと言うのか」という気持ちが先に立ち、相手の保護者の言い分を丁寧に聴こうとせず「そのことはですね・・・・・」と言い訳的な態度を繰り返す。
 相手の保護者は、それにいくぶんは不満を持ちながらも「まぁ、このぐらいで」と済まそうと思っているところに、心のどこかで教師が「最後は自分たちが相手より有利な状態のままで終わりたい」と思って発する「ひとこと」は、とんでもないトラブルの長丁場を引き出してしまうことがある。
 私がタクシーに乗ったときに運転手から聞いた話。バブル崩壊後の1990年代中頃から、客からの要求の度合いが厳しくなり、同時に無理難題も増えてきたことを実感したという。それでも何とかやってこられた極意は、自分の理があると思っても、最後は自分が優位にならず「半分以上は客側の気持ちを良くさせる」ことに徹することだという。100のうち、51は相手に、自分は49で収めておくというのだ。
 むろん学校におけるトラブルに関わって、いつもそれが正しいとは限らない。明らかに理不尽な場合もあれば、一歩たりとも譲れない局面は幾つもあろう。ただ、ここであえて「5149」を持ちだしたのは、学校や教職員の性(さが)のようなものが、問題の解決を邪魔することがあるということだ。
 教職員は困ったトラブルに遭遇しながらも、自分の経験から見てたいしたことがないのに、保護者が大げさに問題を取りあげてきたのではないかと思った場合に「ここはひとこと言っておかないと気がすまない」と思って、余計なことを発してしまって、せっかくまとまりかけた話がおじゃんになってしまうことが幾つかある。
 教師は教えるという行為を行うという職業から「あれはですねぇ、お母さん・・・・・」と、説明ではなく「説得」というモードに入っていく傾向がある。「ひとこと多い」のだ。
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小野田正利:1955年生まれ、大阪大学教授。専門は教育制度学、学校経営学。「学校現場に元気と活力を!」をスローガンとして、現場に密着した研究活動を展開。学校現場で深刻な問題を取り上げ、多くの共感を呼んでいる)

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