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子どもと心を通い合わせ、創造的な仕事ができるためには、教師には何が必要か

 私は歌人であったことが、教育の仕事のなかで非常に役に立った。私は土屋文明という巨大な先生の人間性や歌を学ぶことによって、自分や自分の歌を高めることができたのだ。巨大な先生にみてもらえる安心感から、巨木を追っかけて、思いきって「これでもか、これでもか」というように歌をつくった。弱弱しい私のような人間が、自分を新しく、太くし、創造的な教育の仕事をすることができたのだ。私はそのことを誇りにし、しあわせに思っている。
 私は先生たちに、詩でも童話、脚本、作曲、絵、記録、何んでもよいから何かの表現活動をすることをすすめた。それは、一つは解放された人間だけに表現活動があり、表現することによって人間は解放され、自覚し、生き生きとした創造的な仕事ができるようになると思っていたからである。
 もう一つは、苦しみやはかなさをともなう、きびしい教育の実践をするためには、教育以外の表現活動をしていないと、長続きしないと思っていたからだ。教育の仕事は結果が子どもの上に現われる。しかし、その子どもたちは、他の芸術作品のように定着させておくことはできないものである。
 そういう仕事を進めていく過程においても、仕事をすればするほど孤独で、さまざまな苦しみやはかなさがつきまとっているのが教師の仕事である。長く続けていくためには教育以外に自分の表現活動をもっていないと、ささえがないから、きびしい仕事を続けることはできないと思っていたからである。
 そうしてまた、そういう芸術的な表現活動ができること自体が、創造的な仕事をしなければならない教師の大事な条件の一つだとも思っていたからである。
 私は正岡子規の「真砂なす数なき星のそのなかに吾に向ひて光る星あり」の歌がすきだ。口ずさみながら星をみたり、草や木をみたりするが、真砂のようにたくさんある星のなかから、自分と心を通い合わせている星を持つことができることに私は感動する。
 こういう自然との心の通い合いのできる人間であって、はじめて、子どもとも心を通い合わせることができるのだ。教師はもっと自然をよくみて、自然から学び、自然と心を通い合わせ、自然や人間の本質とじかに交流できるようになる必要がある。自然や人間から豊かにものを学びとり、自分を豊かに変革していけるような謙虚な人間になることが大事である。
 自然をよくみることは、子どもをよくみつめることと同じだからだ。自然と心をふれ合わせることは、子どもとか、仲間の教師とかと、心をふれ合せることと同じだからだ。自然の本質とじかにふれあうことができるということは、子どもや教師の本質とじかにふれ合うことができるということだからだ。
 教育という仕事は具体的な仕事であり、具体的に子どもを動かし子どもをよくしていかなければならない仕事である。したがって具体的な子どもの事実についていき、具体的に子どもの事実を動かすことをしない限り、教師としての責任を果たすことはできない。
 数学のできない子どもをできるようにし、跳び箱のとべない子どもをとべるようにするという、具体的に事実を動かすことのできる技術を持つということである。子どもたちはとべないと思った跳び箱がとべたとき、だめだと思っていた数学ができるようになったとき、自信を持ち喜びを持ち、可能性が引き出され能力をつくり出されるのである。
 教師は専門家としての技術を身につけ、技術をつくり出していかなければならないのである。もし専門家としての教師の仕事をしようとすれば、仕事へのきびしさとか集中とかを学ばなければならない。教室の仕事に専念し、仕事によって自分をつくり出し、自分の仕事をつくり出していく努力をしなくてはならないだろう。
 教師の仕事は一般論をいったり、甘い常識的なことをやっていたのでは成立しないのである。教師の表現である技術によって、具体的に行われるものであり、教師の表現の武器としての技術を鋭くみがくことによって、はじめて教師の仕事は成立していくのである。
(斎藤喜博:1911年-1981年、群馬県生まれ。1952年に島小学校校長となり11年間子どもの可能性を引き出す学校づくりを教師集団とともに実践し、全国から一万人近い人々が参観した。退職後全国各地の学校を教育行脚、「教授学研究の会」を主宰した。多くの教師に影響を与えた昭和を代表する教育実践者)

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