医療関係者も教育関係者も悲鳴をあげている
現在、日本の医療機関は二つの強い圧力にさらされています。医療費抑制と安全要求である。この二つの相矛盾する圧力のために、労働環境が悪化し、医師が病院から離れ始め、現状は極めて深刻である。
医療過誤問題については、なぜ医療事故が起きたのか原因究明の制度はなく、結果責任が追及されています。
医療はもともと不確実で限界があるということが社会でよく理解されないことがある。構造改革で医療報酬の引き下げによって、効率的な経営をよぎなくされた病院で何が起きているかに目を向けず、結果のみを追いかけるマスコミの実態がある。
夜間の当直医などはまさに24時間体制。自分の専門とは限らない、ありとあらゆる急患者が運び込まれてくるのに対して、たった一人で初期処置を取らざるを得ない過酷な現実があります。
また、手術に成功するかどうかは、単に医師の力量だけでなく、サポートする体制の状況、同時に人の身体は複雑ですから、確率の問題でもあります。
医師は高収入と思われがちですが、病院の勤務医は大企業のサラリーマンの給料とさほど変わらず、労働時間は過重です。いま病院から小児科医が消え、産科医が立ち去りつつあります。
教育のほうに目を転じると、家庭で子どもを育てることのできない保護者に代わって、子どもたちを養護する「児童養護施設」があります。保護者が無断で子どもを連れ出したり、夜間だろうがお構いなしに訪問面接を要求し、ときには職員に暴行行為まで起きているといいます。保護者との関係づくりの難しさの中で悩むことが最近の傾向となっています。若い職員が「もう続けられない」と辞めていくことが例外ではなくなってきたと施設長は語っています。
私たちは、自らの仕事以外のことは、よくわかっていないのかもしれません。医療関係者は医学や看護がどういうものかを理解しないまま判決を下す裁判官に怒っており、過酷な状況にある学校関係者は、思い込みと決めつけで好き勝手な報道をするマスコミに強烈な不信感を持っています。
マスコミ関係者も販売数、視聴率という数字に追われ、仕事をしています。双方が弱者なのに、それが連帯へと結びつかないのです。
なぜお互いが相手のことを分かり合えないのでしょうか。もう少し冷静になりませんか。落ち着こうではありませんか。
(小野田正利:1955年生まれ、大阪大学教授。専門は教育制度学、学校経営学。「学校現場に元気と活力を!」をスローガンとして、現場に密着した研究活動を展開。学校現場で深刻な問題を取り上げ、多くの共感を呼んでいる)
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