授業で大切なこと、子ども・保護者とのコミュニケーションで大事なこととは何か
教師の仕事のなかでは、「楽しい授業をして子どもとたくさん遊ぶ」ということが、最も大切だと考えています。ただ、最近の学校を見ていると、教育改革のもとで先生たちの仕事が増え、教材研究が不十分になったり、子どもと遊ぶ時間がないという、本末転倒な状況が起きているように思います。
教師にとっていちばん大事な仕事がおそろかになってしまうのであれば、教育改革はむしろ逆効果です。先生たちが元気いっぱいで授業に臨んだり子どもたちと遊んだりする、という状況をつくっていかないと、日本の教育は良くならないと思います。
私は中学校でチョーク一本の昔型の授業をやっていたんです。私が社会科の授業で大切にしていたことや面白い授業というのは、例えば、エリザベス一世の話をする時は、マントを身に着けて水たまり上をぱっと飛ぶ。黒板の前を舞台に俳優のようなつもりで、演技満点で踊りながら歌いながらというような授業をしていたから、割合おもしろい授業やったんちゃうかな。
お粗末なお話を一席というような調子で、「今日は○○について」と言うて、ボケとツッコミでげらげら笑わせながら、せやけど黒板に書いたことは大事なことやから「絶対これ写しといて」とか「これだけはちゃんと覚えてや」と。だから社会科は割合、好きになってくれたと思います。
私が中学校の現場を離れて18年ほど経ったとき、向山洋一という法則化運動の代表と授業対決をするという話があって、小学六年生に授業をすることになったのです。18年もブランクがあったので、周囲からは「無理だ」と言われ反対されましたが、それでも自信がありました。試しに子どもたちと私のフィーリングがあうかどうかを確かめに、小学校に給食を食べに行ったのです。そのあと子どもたちと体育館でバレーボールやりました。私が帰るときには、みんなが集まって挨拶してくれて「これで自分は授業ができる」と確信しました。
「意欲・やる気・こころ」があって、子どもたちと心が通じ合ったら、たとえ18年間チョークを持っていなくても、年齢が多少上でも、授業をすることはできると思います。意欲というのは勝手に生まれるわけではなく、子どもと触れ合うことを通して育つものです。
学校の先生も多忙化するなかで、教育への意欲を持てなくなっているのではないでしょうか。「よし、授業をやるぞ」という、明るくて、はつらつとした先生でないと、子どもたちの意欲も育たないと思います。
私が子どもたちや保護者、同僚の先生とのコミュニケーションを取るのに気をつけていることがあります。私はあまり腹が立たない方で、ぼろかすに子どもに言われても、あるいは、保護者にきついこと言われても、同僚の教師から批判されても、割合、言われたときは平気なほうで「考えます。えらいすいません」とか言うてね、ニコニコして受け止めるほうなんですね。
家に帰ってから、腹たってね、寝るときに「くっそう、なんであんなこと言われなあかんねん」と思いながら、枕抱きしめて泣くんやけど。そやけど、言われたときは、腹たてんようにしている。いつでも受け止める。受け入れる。言われている最中は受容。受け止める。抱きしめる。そういうように努力して、あんまりかっかせんようにしているというのが、私がコミュニケーションをとるときの姿勢ですね。
思春期の子どもとのつきあい方は、大きく受けとめることだと私は思います。受容することです。それから、一緒に手をつないで親と一緒に頑張ろうなという姿勢です。
私は校名を聞けば「こわーっ」と後ずさりされる困難校で勉強したいと校長先生にお願いしたら,即かなえられ8年間勤務することになりました。振り返れば,今の私をつくってくれたのは,この8年間とも言えます。
荒れている子どもたちに、本気になってつきあったらどんなにすばらしいか。見た目にはしんどい子でも、子どもの可能性を徹底的に信じてやって下さい。だまされてもいいんです。子どもは変わるという気持ち、その子どもにくらいついていってください。子どもは必ず変わります。子どもの可能性を最大限信じる先生になってください。
子どもと向い合って、いつも親は怒る側で、子どもは怒られる側、先生はいつも正しくて子どもは悪いというのではなくて、一緒に頑張ろうという「同行二人」の関係です。一緒の方向を向いて歩いて行くというのが、思春期の子どもの子育てのポイントになると思います。
(野口克海:1942年-2016年、大阪府公立中学校教師、大阪府教育委員会理事、堺市教育長、文部科学省教育課程審議会委員、園田学園女子大学教授、大阪教育大学監事を経て子ども教育広場代表)
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