教師がクレームを続ける保護者を訴える裁判を起こし勝訴したが、そこで経験したこととは
関西の公立高校に勤務する私が2003年、保護者を訴える裁判を起こしました。裁判では保護者側が和解の申し入れをし、保護者は誹謗中傷について裏付けのない情報発信だったと認め、慰謝料を支払い、面談交渉を求めないとして和解が成立した。2013年テレビのニュースでも放映された。
トラブルの始まりは文化際でのクラブ発表で「3年生が出る時間が1,2年生と同じなのはおかしい」というクレームであった。担当の顧問では解決出来ずに同じ部の顧問である私が対応にあたった。
私は「娘さんに辛い思いをさせたことについては、深くおわびいたします。今後そういうことのないよう気をつけていきます」と謝罪しました。
その1週間後にまた校長に面会を求めてきました。前回会談後、見送ったときの私の態度が悪い。「子どもの傷ついた気持ちをどうしてくれるのか」謝罪をしろ、謝罪文を書け、学校を変われ、教員を辞めろと攻撃してきた。
私はこの時、因縁をつけるような内容に変わったなと感じました。私を辞めさせことは法的にもできないことなのに、何か別の解決方法を求めているのではないかと思いました。
私は教育上も法的な落ち度もない自信があったので、責任の証拠を残すような謝罪文は要求されたが書きませんでした。
その後、心身症の診断書を持って来ました。保護者は学校と私を訴えると言い出したのです。私は
「心身症は本人のパーソナリティによるところが大きいし、原因の特定はできないはずだ。私個人の名前がありましたか?」
「私個人は訴えられませんよ。学校を訴えたとしても、市が訴えられるんですよ。第一、何を訴えるんですか。訴えることないじゃないですか」とも言いました。
校長は右往左往するばかりです。「校長として、最後のおとしどころをどこにしようと考えていますか」と尋ねましたが、答えは返ってこなかった。
その後、裁判になるかもしれないということで、教育委員会の聴き取りがありました。行政の人で専門知識もあり、事件にもならない、たわいもないことだから、学校で解決しなさいと校長に返したようでした。しかし、校長はしばらく放置してしまったのです。
もし、校長が保護者に「無理なことはわかっているでしょ。裁判するなら、してください。学校はこれ以上対処できません」とはっきり言っていれば状況は変わっていたかもしれません。
保護者はネットの掲示板などに、でっち上げの誹謗中傷(セクハラ教師、不倫教師等)の書き込みを始めました。私は学年主任の立場であったので、信用失墜した中で指導することができないので一番しんどかった。
これはもう弁護士に相談せざるを得ないと思い、インターネットの書き込みなど証拠になるようなものを印刷して、いままでの状況を弁護士に話しました。弁護士は「これは闘えるし、闘わなければならない」と言われて自信が持てました。
インターネットの書き込みは、掲示板のプロバイダーに弁護士署名で書き込みをして、内容証明の差し止めを送って掲示板が削除されたのです。
突然、校長から電話で「休職してくれないか」と言われました。私は憤慨して校長とはここで決別しようと思いました。教育委員会と話をして教育センターに異動することになった。
さらに、保護者側が私を糾弾する教育集会を開催するという文書を教育委員会やマスコミ各社にフックスで送りました。私は弁護士と相談して、この集会の中止と、インターネットでの誹謗中傷や面談の強要の禁止を出そうということになりました。
裁判所に双方が呼ばれて口頭で陳述する機会を与えられました。「保護者側は誹謗中傷してはならない。そのための集会を持ってはならない」という仮処分がだされました。
私は保護者に対して「ここで終わり」ということを見せないかぎり、この問題は解決しないと、本訴訟し、勝訴したのです。
訴訟が終わった後、中学校への異動で心機一転、一からスタートという気持ちで取り組もうとしました。しかし、30代から責任ある仕事を多く任され、リーダー的な立場に立ち、人脈もできていたのに、中学校へいくと人脈もなく、新採あつかいを受けているような印象をうけました。勝訴であったにもかかわらず、かなりのジレンマに陥りました。
しかし、嘆いているだけでは仕方がない。自分で道を開こうと思いました。教育委員会という組織や管理職という立場とは決別して、対等に渡り合おう、自分自身を高めていこと考え教育行政を専攻し神戸大学で教育学修士を取得することができました。
そこに至るまで時間がかかりました。中学校に勤めて2年目から学年主任として6年間過ごしてきました。そこで原点に帰るような教育ができ、教え子たちがまた私のもとに寄ってきていますので、その意味ではプラスになったと思います。
今回の件で私が経験し、考えさせられたことは、シロと認められた教師に対する周囲の信頼をどのようにして回復するか。保護者からのクレームに対して管理職等は「先生を守るため」という言葉を使って教師を懐柔し穏便に進めようとする。クレームを言ってきた保護者側のシナリオに基づいて、教師を犯罪者扱いで事情聴取される怖さを体験しました。
いまは教師と保護者が対等と見られる時代だから、教師自身も自分を守るために一般社会の法的知識ぐらいは備えておかなければならないと強く思っている。いざというときに相談できる先を探しておく。本当のグチや弱音を言える信頼できる教師を一人でもいいからもってほしいと思います。
(宮崎仁史:公立中学・高校教師)
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