親や教師が子どもたちから信頼され、親密で素直な関係を築くにはどうすればよいか
日本の多くの子どもたちが、心の休まる居場所を失っています。家庭でも学校でも厳しい言葉が、飛び交っています。みなさんの家庭は、この一年、温かい優しい思いやりのある言葉と、厳しく追いつめるようなひどい言葉と、どちらが多いですか。みなさんの学校は、子どもたちに対して、明日を語る優しい言葉と、今をしかる厳しい言葉とどちらが多かったですか。
私は講演でこの質問をしますが、ほぼ9割の家庭や学校では、厳しい言葉が多かったという返事がかえってきます。本来、家庭や学校は、子どもたちにとって、最も優しく憩える場所でなくてはならないものです。その大切な場所が、ストレスのたまる生きにくい場所になっています。
そして、そのイライラから、いろんな問題を生じさせています。私は、家庭や学校が、子どもたちの最高にやすらぐ居場所になってほしいのです。
人間は日常、生活していれば、言葉で傷つくことがあります。人は生きていく上で、どうしてもだれかを傷つけてしまうし、嫌な思いをさせてしまいます。だから、私たちは「ごめんなさい」という言葉をもっています。
この「ごめんなさい」と言う言葉が最近あまり使われなくなっています。親や教師は、自分が子どもに対して傷つけるような行為をしても「ごめんなさい」と謝ることが、自分の権威を傷つけることになると思って居直り、何とかその場をごまかしています。これが、大人への信頼感を奪っています。大人と子どもの間には信頼感が大事です。信頼関係がなければ教育は成り立ちません。
私は教師時代、毎日のように「ごめんなさい」を子どもたちにいいました。「ごめんなさい」の一言が、いつも私と子どもたちとの関係を密なものにしてくれました。今までよりも親密な、そして素直な関係を築いてくれます。
子どもたちは、家庭でも学校でも「ああしなさい」「こうしなさい」「なにやってるの」「だめでしょ」「がんばれ」といつも追い立てられています。子育てや教育の基本は、待つことだと私は思います。待つことには、あなたを信じているという最高のメッセージが含まれています。
子どもは不完全な存在だから子どもなのです。だから、優しく導き育てなくてはなりません。子どもたちの過去と今を責めずに「いいんだよ」と受け入れる余裕を、そして「でもね」と教えてあげる優しさをもって下さい。
多くの親や先生は、子どもたちが学校に行きたくないというと、その原因を子どもたち自身のなかに探します。そして、子どもたちが「弱いからだ」「甘えだ」「さぼりたいからだ」といって責めます。
私はそうは思えません。その理由は、現在の学校の中にあると考えています。学校が、日々楽しく、そして自分がきちんと評価され、明日のために笑顔で過ごすことのできる場であったら、どの子が学校に行くことを嫌がったり、不登校になったりするでしょう。
いいかげんに生きている子どもが、この世の中にいると思いますか。私は、ひとりもいないと思っています。今の日本のこの時代を生きていくことは、子どもたちにとってとてもきついことだと考えています。
今の学校で褒められたことと、しかられたこととどちらが多いかを先生がた、ぜひ自分の学校で子どもたちに聞いてください。温かい優しいことばと、厳しいきついことばと、どちらが多く語られているかを。
みなさんにとって、どんな子が「いい子」ですか。私は、すべての子どもは、生きていてくれるだけで「いい子」だと。もし、笑顔を浮かべて、目を輝かせて明日を考えてくれたら、それこそ「最高にいい子」なんだと。
子どもは、ただ笑顔でそこにいてくれるだけで、大人たちにとって、とても幸せなんです。子どもたちは、みんな「いい子」です。私たち大人の宝物、夢なんです。ただ、生きてさえいてくれればいい。もし、笑顔でいてくれればなおいい。私はそう考えています。
学校を変えませんか。子どもたちが笑顔で日々過ごすことのできる場所に。それは、学習をおろそかにして、遊ぶ時間をつくればいいというのではありません。子どもたちが、自分たちが必要とされていて、正当に評価され、明日の夢をもらえると感じる場になればいいのです。
そうすることは簡単です。すべての子どもたちのいいところを、すべての先生方で手分けして、どの子どもも一日に10個はきちんと褒めて評価してあげればいいのです。子どもたちが先生に仕事を頼まれたり、褒めてもらえたりすることは、その子どもに自己肯定感、自信を与えます。これが明日を生きる強さとなります。
子どもたちに「今の幸せ」をあげませんか。「今の幸せ」とは、子どもたちにとって、家庭や学校がとっても温かく、愛に満ちた場所で、優しさと思いやりを日々大人たちから与えられ、多くの友だちと笑顔で過ごすことができることです。
(水谷 修:1956年生まれ 1992年に定時制高校の教師となってから、横浜市を中心に夜の繁華街をパトロールする「夜回り」を始める。 2004年教職を辞し、全国で講演と夜回りを続ける。水谷青少年問題研究所所長、花園大学客員教授)
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