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子どもと教師がきずなを結ぶうえで大切なことは何か

 子どもと教師の関係を結ぶうえで大切なのは、まず、教師が一人ひとりの子どもと正面から眼差しを合わせて対話できることである。子どもと教師がコミュニケーションをとることが、教室で出会い、そして絆を結ぶ第一歩となる。
 それには、その子の興味や特徴を知る必要がある。どんなことをしていると元気が出ていい笑顔を見せるのか、またどんなとき嫌な表情をするのか暗くなるのかを見きわめる。
 そして、自分から話すのが好きか、教師の話を聞く方を好むのかも理解して、相手に即したコミュニケーションをとる。
 
「話を聞いて」という子どもには、熱心な聞き手になる。恥ずかしくて「思うように話せない」子どもには、話したい話題、話しやすい話題が出せるように、教師は尋ね上手になる。先生の「話を聞きたい」という子には、楽しい話をして聞かせる。
 授業以外でも、休み時間などのちょっとした機会をとらえ、クラス全員と話をする。
 私が小学校の教師だったとき、一日一回は授業中にクラスの子どもと学習に関わる対話をするよう心がけた。「これはいい!」というひと言でもいい。微笑み交わすだけでもいい。教師がその子を温かく見ている、というメッセージを送り届ける。そういう毎日の努力が、子どもとの絆を結ぶ助けとなる。
 大人との関係に何らかのストレスを感じている子どもは、話すときに目線を合わせないことが多い。何か物をいじりながら話したり、別の方角をみて話したりする場合、無理に正面で向き合うことはしないが、丁寧に子どもを観察して、なるべく自然な体位で話せる関係を結ぶように努める。
 教師は授業を成立しやすくするうえで、子どもの関係、教えと学びが成立しやすい関係を考え、子どもとの距離を考える。それぞれの子どもにふさわしい距離を考慮し、関わり方を工夫する。
 子どもの側で、そこまで教師に入りこんで欲しくないという信号を発する者もあり、また例外的には、それ以上踏み込むと危険な子どももいるだろう。そういう場合は専門家に依頼する方が適当な場合がある。
 新任教師がよく陥るのは、子どもと友だちのように馴れなれしい関係になるか、逆に権威主義的で押え込む関係になる状態がある。これがいちばん良くないとされる。子どもが反乱を起こすと収拾がつかなくなる。バランスのとれた人間関係が今日の教室運営の中心だといえる。
 私は帰りの通勤電車の中で子どもたちの名簿を見て確認する。そうすると、どの子を見落としがちか、どの子と話す機会が多いか確認できる。見落としがちな子どもとは、機会をとらえてゆっくり関わる努力をする。
 子どもと教師の絆は、学ぶ体験、教える営みを介して結ぶものでありたい。授業を通して、共に学ぶ喜びや、やり遂げた満足感を共有し、互いの努力や苦労を認め合うなかで、信頼関係や探究的な生活態度を形成していく。
 子どもは、自分を温かく受け入れ、本気で心配し、世話をしてくれる先生を求めている。一対一の絆を結ぶことで、自分を大切にしてくれる先生に関心が向き、教師の呼びかけを聴き取るようになる。
 この傾向は、今や保護者にも広がっている。社会性の発達の遅れだが、こういう「甘え気分」が、今蔓延している。こうしたことは、他の人の立場への配慮を欠きやすく、自分の求めに相手が応じなければ、非難や攻撃となってはね返る危険性がある。
 今は教師も学校も、マスコミにたたかれる権威なき存在である。けれども別の意味で、教師への期待は明確になったのかもしれない。
 人々は教師の人間性に期待し、良い授業や学びの面白さ、仲間と育つ喜びを子どもに保証してほしいと願っているようだ。これは教育に対する本質的な期待である。これを実現すれば、教師は信頼と期待を獲得できる。
 とすれば、今は真の意味で教師が専門家であることが求められ、また、専門家となることが必要な時代なのだといえるのではないだろうか。
(
澤本和子:お茶の水女子大学附属小学校教師、山梨大学教授、日本女子大学教授を経て日本女子大学名誉教授・早稲田大学客員教授)

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