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学級の荒れを「誌上討論」で克服することができた

 三月下旬になっても六年担任が決まらない。学級が荒れて大変なクラスだったのです。校長が「今泉先生、ひとつ六年担任をお願いします」と何度も頭を下げるのでした。誰も希望がいないので私が担任をすることにしたのでした。
 私が教室に入っていって話そうとしても、おしゃべりは止むことなく続くのです。もし、これまで「きちんと指導」してきた教師であれば、子どもたちのそんな姿を見ることは耐えられないことです。
 どうしても指示や注意が多くなりがちです。これでは子どもとの関係もうまくいきません。ベテラン教師が荒れに直面して自信を失っていくのはそのためです。
 その意味でも「完全主義」を克服することが荒れた学級を担任した場合はとくに重要です。「八割ぐらいできればいいや」という思いで取り組めば、気持ちの上でも、ずいぶんらくーになるものです。そうでないと、神経をすり減らし疲れきってしまいます。教師の仕事を続けていくことが困難になる場合もあります。
 教育の仕事を続けるための知恵を「荒れ克服」の取り組みを通して身につけていくことが必要だと思います。発想を変えるだけで、こんなにもちがってくるのかと、体験を通して実感できたらもうしめたものです。
 学級で「暴言」「いじめ」「暴力」「仲間はずし」が次々に起こるのです。その場面を目のあたりにすることは、教師にとって、耐えがたいことでした。
 学級で起きる事実を出し合い、苦しみを共感し合う中でこそ、子どもたちは変わっていきます。そのためには、どうしても話し合いが不可欠です。
 ところが学級は話し合えるような状況ではまったくないのです。本を何冊も買い読んでも、いま私が抱かえている問題に答えてくれるような本は見あたりませんでした。
 何日間か考えているうちに、ふと思いついたのです。「いじめ」られたり「暴力」を受けたりした子のうち誰か一人が、その事実を書いてくれさえすればいいのです。自分が被害を受けてなくても、見ていて「かわいそうだ」と思ったことを、誰かが記してくれればいいのです。
 その文章を学級の人数分、印刷します。プリントには、それぞれの子が自分の意見を書き込めるスペースをとっておきます。その枠に、文章を読んで感じたことを書いてもらえばいいのです。
 この方法だと、学級全員の子どもたちが「いじめ」や「暴力」などの問題を考えることができます。自分の意見を書き、お互いに交流し共感し合う。率直に批判もし会う。これはもう立派な話し合いです。
 子どもたちが書いたプリントを毎日、目を通します。赤ペンで子どもの勇気を励まします。子どもたちが書いた文章の中から「これは」と思うものを、いくつか選び、翌日配布するために印刷するのです。それを「いじめ」「暴力」が解決するまで毎日くり返せばよいのです。プリントは冊子にしていくようにします。
 毎日わずか15分程度あればよいのです。この方法は、実際にやってみて、私が考えていた以上に有効であることが実感できました。何日間かこの「紙上討論」をくり返していくうちに「いじめ」の中心だった子たちも、ある段階で反省しだします。
 その子たちが、自分がしてきたことが、どんなに相手を傷つけるものであったか、リアルに理解してもらうために、反省しだしたからといって、その文章をすぐに載せるということはしません。 
 友だちの文章を読むことで「いじめていた」子たちも内面から変わりだします。関わっていた子どもたちの行動まで変わっていくのでした。次第に周りの子たちにも、その変化がはっきりわかるようになります。友だちが「○○くんはいじめなくなった」と事実で書くようになります。
 それだけでなく、「いじめていた」子のつらさにも共感するようになります。このような行動をとらなければならなかったのには、なんらかの理由があったのだと次第にわかるようになります。
 周りの子どもたちからの批判だけでなく、共感の声があがりはじめたとき「いじめていた」子は内面から変わりだします。わずか2週間か前の状態と比べ、子どもたちの変化には目を見張ります。
 教師が説教などしなくてもいいのです。子どもたちの共感と批判の力で、学級が変わっていくからです。教師は勇気ある意見や行動を励まし続ければいいのです。重要な意見について、教師はコメントを加え強調する程度でいいのです。
 行動が変わってきた段階が「紙上討論」の終了の時点ということにもなります。取り組みを続けるか、これで終わりにするかも、子どもたちと話し合って決めていけばいいのです。その後、なにか学級で問題が起きたときでも、自由に話せるようになるものです。
 
「紙上討論」を始める前日に私は学級の子どもたちに
「いままでに友だちから、いじめられて腹がたったことや傷ついたこと、暴力をうけて悔しかったことなどを、この半裁の紙に書いてほしいのです。あしたからみんなで『いじめ』『暴力』『暴言』『仲間はずし』がなくなるように取り組みを始めます。・・・・・」
と、呼びかけて書いてもらいました。
 
「紙上討論」のプリントのタイトルは「こんなことが許されていいのか」としました。サブタイトルには「勇気ある発言・行動が『いじめ・暴力・差別』のない楽しい学級を創る」と書きました。
 子どもたちに「紙上討論」のプリントを貼りつける表紙の色画用紙にタイトルとサブタイトルをつけて印刷して渡しました。
 「紙上討論」No.1の用紙に、私は「呼びかけ」の文章を書きました。その要旨は
 (1)
いじめ・暴力・差別は人間として許されることではない。だまっていては絶対になくならないし、ひどくなる。
(2)
いじめられないように友だちと合わせることだけに神経を使い、学習どころではなくなり、落ち着かないクラスになる。そういう生活は疲れ暗くなり、イライラし怒りっぽくなる。
(3)
勇気ある発言・行動が楽しい学級を創る最大の力です。いじめ暴力をふるう友だちも救うことができる。
 予想通り、最初は「いじめ・暴力・仲間はずし」のことはあまり出てきませんでした。しかし「紙上討論」を重ねるうちに、書き始めたのです。
 学級が荒れているのであればあるほど、解決を期待する子どもたちの思いは強いのです。その機会をつくってあげさえすればいいのです。
 それには「安心して語れる場と方法」設定すればいいのです。一人ひとりの声が、やがて学級に流れをつくりだします。最初は文章を書いた子の名前を伏せるのも、安心して事実や自分の思いを書けるようにするためでした。
 私が苦労してたどりついた毎回全員参加の「紙上討論」は、その一つの方法だと思っています。もっと多様な方法が考えられると思います。子どもたち自身の力で解決することを尊重することは重要なことであると思います。
(
今泉 博:1949年生まれ、元東京都公立小学校教師、北海道教育大副学長、創造的な授業の研究・実践を広く行う)

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