中学校の数学教師の授業が崩壊し、保護者から担当変更と緊急保護者会の開催の要求があったとき、どうすればよいか
中学校で授業崩壊している数学教師の担当変更と緊急保護者会の開催要求があった次のような事例がある。
古い伝統校で保護者が教育熱心な中学校の3年A組の保護者から数学担当のB教師の授業について、
「教師が授業に遅れてくる。おしゃべりや立ち歩きしている生徒を注意しない。生徒のおしゃべりがうるさくて授業に集中できない。授業の説明がよくわからない。ときどき答えを間違える。授業の進度が他クラスからかなり遅れている。」
といった苦情が授業参観のあとの学年懇談会であった。PTAの学年委員長から数学教師の担当変更と緊急保護者会の開催要求があった。
A組の学級担任は緊急保護者会に反対したが、A組のほとんどの保護者は緊急保護者会の開催に同意した。
学級懇親会の終了後、A組保護者代表5名は校長に数学教師の変更を要求したが、校長はこれを拒否した。代わりに、校長はB教師への指導の指示と、校長が授業を巡回すると保護者を説得した。
2日後、学年委員長から強硬的に緊急保護者会を開くと連絡があり、校長は承諾をせざるを得なくなった。すぐに校長は全教職員を招集しこれまでの経過を報告した。教師の意見を求めると大多数は緊急保護者会を開催しないほうがよいという意見だった。
しかし、校長は緊急保護者会の開催が必要であると述べた。A組のほとんどの保護者が変更を希望していること、B教師の所信表明と学校としての考え方をきちんと説明して保護者を説得する機会が必要という理由からである。
また、校長はPTA役員会で学校の方針を説明すること、B教師の数学担任を変更しないですむ条件について話し合うと述べた。
緊急保護者会が開催され、3年(生徒数150名)の保護者100名が出席した。PTA会長が司会者に教頭を指名した。まず校長がこれまでのいきさつと反省点を表明した。すなわち、B教師の授業崩壊を校長が把握していなかったこと、授業改善策や生徒指導法をB教師に指導していなかったと。
さらに、今後、B教師へ全校支援体制を整えて授業改善策に取り組むことと、B教師の心境と決意をていねいに説明した。
数学の教科主任は、担当教師全員による支援体制を具体的に説明した。B教師の授業がわかりやすくなるように、教材や指導方法、学習形態を変更する協力をして、ティームティーチングを取り入れると。
保護者側から「教育のプロであるにもかかわらず、授業が成立しない事実を学校はどう考えているのか」という厳しい質問があった。学年委員長からは、B教師の心境と、担任変更についての校長の意思を問うた。
B教師は、指導力不足を詫び、わかりやすい授業を心がける決意を表明した。遅れている箇所については補習授業をしたいことも説明した。
校長は、担当変更の意思はないことをはっきりと伝えた。数学科の協力体制とB教師の決意を再度強調して、保護者の理解を求めた。
本件からの教訓は、
(1)管理職は、週案や年間指導計画、校内巡視をとおして、授業のようす、進度、指導方法などを日ごろからきちんと把握することが大切である。
(2)B教師の指導については、問題点を分析するとともに、生徒理解や授業の進め方など具体的に指導・助言を行う必要があった。
(3)授業崩壊は、教師の指導力不足が大きな原因のひとつである。「魅力ある授業、わかる授業」をめざして、研究授業や校内研修を充実し、「教師は授業で勝負」できる学校体制にしていくことが必要である。生徒に原因がある場合もある。その際には生徒のいい分を聞くことも大切である。
(4)できるだけ保護者や地域の人々に授業を公開し、子どもたちのあるがままの姿を見ていただく機会を多くもつように努める。
(5)教師としての使命感をしっかり持ち専門職としての研修意欲を高める。さらに、教師相互に励ましあい、協力しあう雰囲気を校内につくりあげることが大切である。
(青田祥伸:1945年生まれ、東京都公立中学校教師、東京都教育庁指導主事、東京都公立中学校校長を歴任した)
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