学級が崩壊するプロセスと崩壊しないための条件とはなにか
学級に「ふれあいのある人間関係」と「ルール」の確立がともに満たされると、一人ひとりの子どもに大きな教育効果をあたえます。
学級にふれあいのある人間関係がないと、子どもは教師に信頼感がもてず、管理的だととらえられてします。ルールがなければ、子どもたちの生活が快適にならず、感情の交流が生まれにくいでしょう。
この「ふれあい」と「ルール」は学級づくりに欠かすことができない重要な2つの条件です。
この二つの条件を満たしている教師は、私の調査では2割です。この条件を満たしている教師たちは共通して、子どもたちの気持ちや考えを察すること、教師の考えや気持ちを伝える技術、具体的な対応といった面ですぐれている印象を受けました。
もっとも多いのが、ふれあいのある学級よりも管理的にまとめようとする教師で6~7割です。残りは、学級内の人間関係がなれ合いになってしまい、秩序が形成されず学級が崩れていくケースです。どちらのケースも、学級経営に必要な2つの条件のどちらか一つが欠けています。
その欠けた一つ条件の影響がもう一つ条件にマイナスの影響をあたえます。最後には2つの条件とも確立できない状態になり、学級崩壊につながっていく危険性が大いにあるのです。
学級が崩壊するプロセスを教師のタイプ別で見ていくと
(1)教師の働きかけが少ないタイプ
もっとも学級崩壊が早い。このタイプの教師は、最初から学級を育成するために、学級のふれあいのある人間関係とルールを確立しようとする働きかけが少ないのです。
ルールを確立しようとしないために、子どもの行動の枠が育たず、子どもたちは烏合の衆になっていくか、力の強い子による勝手なルールによって、彼らの思い通りに牛耳られていきます。その結果、教師の指導はまったく通用しなくなってしまいます。
(2) 罰や叱責で子どもの行動を規制するタイプ
子どもの行動を規制する枠を、教師の罰や叱責というかたちで、いちおう学級は形を保っている状態です。
しかし、そのうち抑圧されていた子どもたちから徐々に不平がでてくるようになってきて、教師に反抗する子どもが出てきます。その輪が過半数を超えると、子どもを押さえていた教師の力は急速に効力を失っていきます。
子どもたちに反抗の余地を与えないような圧倒的な権威をもって、教師が子どもを完全に押さえ込んでいる学級では、子どもは教師の指示に従うが、子どもの心には不安や緊張が高まっています。子どもにとっては学級崩壊に等しい状態であるといえるでしょう。
(3)自分の意図通りに子どもを管理するタイプ
この教師は、子どもが抑制されてストレスが溜まってきたなと思ったら、発散させるテクニックにたけています。例えば、授業時間をつぶして、子どもの喜ぶことを特別にやらせたりします。やがては飽きてきて、その手も通用しなくなってくるでしょう。
(4)温和で親しみやすいタイプ
子どもから好感をもたれます。でも、それに教育技術が伴わないと学級崩壊を招いてしまうことがあります。
なるべく子どもと衝突したくないから、ルールを確立すべきときに、一貫した指導を行うことができません。学級生活を送るために必要な最低限のルールを確立する技術が乏しいのです。
そのうち子どもの指導が必要なときに、教師として罰や叱責の力を使わざるを得なくなります。しかし、力の弱いものになってしまい、学級内がなれあいの雰囲気になります。それまで、温和でやさしい教師であったので、子どもたちはついていけなくなります。
学級づくりに必要な「ふれあいある人間関係」と「ルール」づくりはどうすればできるのでしょうか。
教師が教育愛に燃えて熱血的な指導をすれば、子どもたちはそれを受け止めて成長してくれると考えるのは、あまりにも短絡的です。教師の思いを子どもに伝える取り組みや技術が必要なのです。
注意すべきポイントは、その教師の学級経営を子どもたちはどういう風に受けとめているかという視点から検討することが必要です。
1 学級の子どもと「ふれあいのある人間関係」をつくるには
(1)子どもを尊重する
子どもの失敗を受容する。問題行動は注意するが、人間性は否定しない。指導や指示を命令口調でいわない。子どもをプラス志向でとらえ、よいところをほめてあげる。
(2)子どもを豊富な視点でとらえる
一人ひとりの子どものよいところ、興味のあることを知っていて、言葉がけの話題とする。
(3)子どもが話しかけやすい雰囲気を意識的につくり、子どもに話かける
意識して楽観的な雰囲気を醸し出す。休み時間、放課後などで、子どもとくつろいでおしゃべりできる時間をつくる。自己開示し失敗談など話す。その子と共有できる会話を楽しむ。子どもの甘えを受けとめる。
(4)ユーモアと遊び心
子どもが喜ぶような楽しい話、怖い話をいくつかもっていて、ちょっとした時間に話す。
(5)教師と一人ひとりの子どもとの関係づくりをする
交換日記など、一人ひとりの子どもと心をつなぐパイプをもっている。わずかな時間をとらえて話し合う。
(6)子ども同士のふれあいのある人間関係を育成する
子ども同士で教え教えられる活動を取り入れる。友だち関係が活性化するように班編成や席決めをする。学級通信で全員紹介し友だちづくりのきっかけをつくる。友だち関係のマナーや心配りを説明する。
(7)学級でのふれあいある人間関係の育成する
楽しいゲームや遊びを教師が持っている。一人の人間として自分はこう思うんだということを場面に即して率直に話す。人権侵害、いじめは絶対に許さないと表明し実行する。
2 学級生活を快適にするルールづくり
(1)子どもたちの考えの取り入れ
ルールを決めるときに、子どもの考えや希望を調査して、すべての子どもの意見が反映される最大公約数的なものを考える。
(2)ルールの意味を説明する
子どもを管理するのではなく、子どもたちが快適な学級生活を送るためにあることをくり返し説明し理解させる。
(3)ルールの運用
ルールにそう行動を、モデルを示して説明する。ルールをみんなで共通理解させる。ルールを守る大切さを説明する。週に2回くらいの割合で、ルールが達成されている場合はしっかりほめる。学級目標の下に小目標を設定し、子どもが抵抗なく取り組める配慮をする。
(河村茂雄:1959年生まれ、早稲田大学教育学部教授。15年間公立学校教諭を経験した。学級崩壊,学級経営など教育実践に生かせる研究成果を多数提供している)
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