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菊池省三流「荒れた学級」の立て直しかた

 「学校は公の場」であることを子どもに意識させる必要があります。学校は「公の場」であることを毅然と示す態度と、学校全体のシステムの見直しという二つの視点から、学校を対直す糸口を見つけていくことが必要です。
 教室という「公の場」で、決められたルールを守り、仲間とともに楽しく気持ちよく学びあうのが学校です。ところが、荒れた学級では公の秩序が乱れていることがわかります。例えば、教師と子どもが「教える」「教えられる」関係になっていません。
 学級を再び「公的な場」として立て直すためには「言葉づかい」「授業を見直し始業時間の厳守」「授業以外でのルールを示し共通理解する」の三つのポイントが重要であると考えています。
 学校のシステムを見直すには、例えば、毎日10分間のドリルなどの反復練習で基礎学力の向上をはかる。児童会で「あ(挨拶)・し(姿勢)・へ(返事)・そ(掃除)・は(履物入れ)・い(椅子入れ)運動で生活習慣の定着をする。教師が「させる」のではなく、子どもたちが決めたことを、周りの子どもたちに広げます。教師だけでは限界があります。
 不信感でいっぱいの子どもたちの心を解き放ち、本来の子どもらしさがあふれる教室を取り戻すためには、教師と子どもがしっかりとつながり合うことが必要です。学級を立て直すには
1 子どもの過去は問わない
 進級してすぐ、私は必ず子どもたちにかける言葉です。新しい学級で新しい自分を築き上げていこうという意味です。新しい自分を意識させていきます。プラスの方向に導きます。
 しかし最初は、子どもたちは不安でいっぱいなのです。ふとしたことをきっかけに学級が荒れてしまうのです。教師と子どもたちとの信頼関係が十分に築けていないからです。一学期中は、教師が子どもたち一人ひとりとしっかりつながりあう、大切な期間です。
 新学期早々、わざと指示の逆の言動をしたりする子どもがいます。このとき教師は即座に反応し、対抗してはいけません。自分の思いを素直に表現することになれていないため、わざと斜めに構えた態度をとってしまうこともあるからです。「ああ、この子は変わりたいんだな」と新しい担任や学級に期待を抱いているのだと受けとめましょう。
 そういう子に対しては、ぶつかるのではなく、一歩引いて「すかす」形で対応します。例えばプリントを配ったとき「○くんは、プリントをていねいに二つ折にしました。勉強を頑張ろうという姿勢が見られていいですね」とほめます。いいところを見つけ、価値づけをしてほめることで、子どもたちをプラスの方向に導いていく仕掛けが必要です。
2 子どもの情報を把握し、先手を打つ
 気になる子どもの情報をしっかりと把握し、マイナスの行動を止めることも重要です。タイミングを見計らって先手を打つことが大切です。
 問題を抱かえている子どものマイナス情報に引きずられると先入観をもち、子どもとうまくつながることはできません。マイナス情報は、むしろほめる材料として使うようにします。「昨年は、・・・・・だったけれど、今年はこうなったよ。すごく成長したね」と比較してほめるのです。
 教師は周りの子どもたちを味方につけ、問題を起こしがちな子どもに引きずられないようにすることが必要でしょう。
3 子どもを「見る」だけでなく「眺める」視点が大切
 気になる子どもとの距離を縮めすぎると、悪いところばかりが目につきやすくなります。問題を起こすと、つい感情にまかせて叱ってしまい、子どもと衝突してしまいます。
 教師は子どもを見るだけでなく、一歩引いて客観的に「眺める」視点も大切です。問題を起こす子は責められることが多く「どうせ自分なんか」と自己肯定感をもてずにいます。特に問題を起こしたとき「またこの子か」と先入観で決めつけず、きちんと話を聴くことで、落ち着いた気持ちで問題に向き合うことができます。
4 教師は「母親、父親、子ども」の3つの役割を演じ分ける
 母親のようにおおらかに受けとめ、父親のように厳格に接することも必要です。「眺める」視点をもっていれば、どの場面でどう演じればいいか、自ずと見えてくるはずです。
5「報告・連絡・相談(ほうれんそう)」は早めに
 生徒指導で大切なのは、早く子どものサインに気づくことです。常にアンテナを高くし、問題行動の小さな芽に気づくようにしましょう。気になることがあれば、同僚や管理職に早めに報告・連絡・相談しておき、多くの目で子どもを見守っていくことが大切です。
6 特別な配慮が必要な子どもへの対応 
 発達障害児など特別な配慮がいる子どもがいいます。過剰に接してしまうと「あの子だけ特別扱いしてる」と反感を買うことになります。教師はどの子についても価値を認めて、ほめることが大切です。「今日、○さんは明るい顔で友だちに話しかけていました。すごいですね。それを見つけた△さんもえらい」と、価値ある行為をクラスみんなで共有していくのです。ともに成長していこうとする学級づくりが必要です。
7 ほめ言葉のシャワー
 さまざまな問題を抱かえた子どもたちに自己肯定感をもたせ、教室を安心できる場にしたいと取り組み始めたのが「ほめ言葉のシャワー」です。一人ひとりのよいところを見つけて、クラス全員がほめ合う活動です。対象になった子のよいところをみんなで見つけ、帰りの会で発表し合います。時間は1015分あればできます。
 いざ取り組むとなると難しいという声が聞かれます。根づくためには、教師と子ども、子どもと子どもの人間関係づくりが土台に必要なのです。そのために、私はまず教室につぎのような「ほめ合うサイクル」をつくります。
 担任が子どもたちをほめます。やる気が出る。よいことが増える。安心する。すると、ほめられた子どもは徐々に自分に自信をもち、相手をほめたいという気持ちが芽生えます。子ども同士がほめ合います。みんなのために自分らしさを発揮します。
 このような「ほめ合うサイクル」で、ほめ合う関係が生まれることで「ほめ言葉のシャワー」は初めて成立するのです。
8 指導に即効性を期待しない
 若い教師たちに多いのですが、指導後、期待通りに子どもに効果がでないと焦るという話を聞きます。即効性に期待してはいけません。即効性を期待すると、理想と現実にギャップが生じ、教師の思いと目の前の子どもたちがずれてきます。学級崩壊の要因になってしまうのです。
 教師は1年間というスパンで見通しを立て「1年後にできるようになっていればいい」と余裕をもちましょう。私の学級では、4月に子どもたちから「教室にあふれさせたい言葉」「教室からなくしたい言葉」「1年後に言われたい言葉」「1年後に言われたくない言葉」を挙げさせ、1年間教室に掲示しておきます。子どもたちに1年後の未来像を示すことは、とても意味があることだと思います。
9 日々のふりかえりを
 学級づくりにおいて、教師の日々のふり返りが必要です。特に4~5月は、毎日のふり返りが重要になります。
 子どもの姿のいい面、悪い面ばかりとらえてしまうと、偏った指導になってしまいます。
 例えば、気になる子どもに対して、いつも悪い面ばかりとらえてしまうと、言動をやめさせることばかりに目が行き、その子のいい面を見逃してしまいます。
 ふり返りには客観的な視点が必要です。そこで、子どもたちの姿を記録しておくことが大切になります。書いた直後は主観的でも、翌日改めて読み返してみると、冷静な判断ができるようになります。
10
毅然とした態度で臨むことも必要
 子どもいいところをみつけ、一人ひとりの子どもとつながることは大切です。ただし、つぎのような時は絶対だめだという毅然とした態度で臨むことが必要です。
(1)
教師に対する不遜な態度(教師をバカにしたものの言い方や無視、タメ口で話す)
(2)
時間を守らない
(3)
忘れ物をする(社会に出たとき、相手から信頼を失うほど大切なことです)
(4)
掃除や給食など、当番をさぼる(みんなのために働くことは、集団生活に必要不可欠です。認めてはいけません)
 かつてはどこの家庭でもこういう生活規律をしつけていたのですが、今は家庭でしつけられず、いきなり学級で「公」のルールを出しても実感できないのが現状です。
 お互いに信頼関係ができてくる中で「相手への思いやり」の気持ちが生まれてきます。相手を思いやる気持ちがまだ十分でない4月は「公」を少しずつ意識させながら、子ども同士の人間関係づくりをしていくことが大切です。
 学校は「公」の場であり、社会を教える場でもあります。教師は「子ども」を育てるのではなく「人」を育てるという自覚をもつことが大切です。
(
菊池省三:1959年生まれ 福岡県北九州市公立小学校教師、2015年に退職。コミュニケーション教育を長年実践した。「プロフェッショナル-仕事の流儀(NHK)」などに出演、「 菊池道場」(主宰)を中心に全国で講演活動をしている。 北九州市すぐれた教育実践教員表彰、福岡県市民教育賞受賞)

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