子どもが寄りつく教師に「聞き上手」という共通性がある、どうすれば聞き上手になれるか
子どもが寄りついていく教師には共通性がある。その一つが聞きじょうずということである。
聞きじょうずな教師は、子どもたちの話をじつによく聞いている。教師として言いたいことをぐっと押さえ、胸にしまいこまないと、子どもの話を聞くことはできないのである。
子どもは自分の話をよく聞いてくれる教師が好きになる。その聞き方は、
1 肯定的に聞き、否定的には聞かない
子どもたちが気持ちよく話せるように「そうか」「へーえ」と聞く。教師が知ったかぶって「それはちがうだろう」などと、否定せず、子どもの話は肯定的に聞く。そうすると、教師に聞いてもらおうとして、話しかけてくるようになる。
2 まちがっていても許容する
子どもの話はつじつまのあわないことが多い。だが、ささいな矛盾にとらわれず、揚げ足をとったり、まちがいを責めたりしないことだ。子どものいわんとすることをまっすぐに聞いてあげる。
3 話の腰をおらない
教師はすぐに、子どもの話にたいする評価を入れて、流れを断ち切る。あるとき、子どもが自分の父親を「あのくそじじいが」と言うから「自分の親をくそじじいなんて言ってはだめだ」と言うと「話しづれえなあ」と口をつぐんでしまったことがあった。ともかく、話の流れを断ち切らずに、一気に聞くことである。
4 子どもの話にすばやく反応する
くりかえしの技法や、「なるほどね」とあいづちをうつ。「大成功だったね」と感心する。「それでどうしたの。怒られたんじゃないの」と少し質問してみる。いずれも、話をはずませる聞き方で、「きみの話をよく聞いている」ことを示している。
5 子どもの話を「心を無にして聞く」
子どもの話の聞き方には、技術以前にだいじなことがある。それは、「心を無にして聞く」ことである。ところが、これがなかなかむずかしい。
教師は、子どもを見るとき「子どもはかくあるべきだ」という自分の基準に照らして見ている。その基準が高い教師は、子どもに対して厳しく評価し、基準が高くない別の教師は、同じ子どもを「いい子」だと評価する。子どもの話を聞くときも、たえず、自分にすりこまれた基準に照らして聞いている。
たとえば、ある子どもの話を聞いて「くだらない」と思うと、その気持ちは、かならずその子どもの心に伝わる。
子どもは教師に話しながら「あっ、先生はわたしの話をくだらないと思っているな」と感ずる。
そこで、教師は子どもの話を「心を無にして聞く」必要がおこるのである。なかなかむずかしい。どうしたらいいのだろうか。そのためには、
(1)肯定的に子どもを見るようにする
「生意気だ」と否定的に見ないで、肯定的に子どもを見るようにして、子どもの話を聞く。
(2)教師の基準を強く表面に出して、聞かないこと
たとえば「勉強のできる子どもはりっぱだ」という態度を全面的に出して子どもに接しないこと。
(3)心を真っ白にして聞く
教師の基準や、先入観、思いこみを捨て、心を真っ白にして子どもの話を聞く。砂漠の砂に水がしみこむように、ひたすら子どもの話を「なるほど、なるほど」と丸ごと受けとるということである。そうすれば、子どもの側からいえば、話しやすい状況をつくることになる。
6 パフォーマンスをそえて聞く
子どもの話はいろいろある。うれしい話を子どもが興奮して話せば、聞くほうも身を乗りだして聞く。そして最高に盛り上がったところでは、ガッツポーズでもいい、机を叩いてもいい、身体表現をそえて聞く。
いっしょうけんめい話をしてくれた子どもに、言葉では表現できない気持ちをジェスチャーによって伝えるのである。それは「先生は感動した」「おもしろい話をきかせてくれて、ありがとう」という感謝の気持ちを子どもに伝えるという意味をもっている。
子どもの話は、言葉と身体表現によって聞く。つまり、全身で聞いてほしいものだ。そういう教師に子どもたちは寄り集まってきて「聞いて、聞いて」とせがむようになる。子どもがどれだけ教師にちかよってくるか。その多少は、教師の力量のひとつのバロメーターである。
7 子どもの話は最後までゆっくり聞くこと
人は最後まで話をきいてくれた人に、感謝の気持ちを抱くようになる。しかも、聞いてもらったことで自信がつく。最後まで話を聞くには、途中で、言葉をはさまないことだ。相手の話の腰を折ることになる。
相手が話しやすいように、うなずいたり、感嘆したり、それでと促したり、自己開示しながら聞いていく。辛抱強く最後まで聞く。
最後まで聞くと、子どもがなにを言いたかったのかが、ようやく見えてくる。「ああ、こういうことを言いたかったんだな」と。最後まで聞く辛抱がないと、なにを言いたかったのかが分からずじまいになる。これは指導にとっての損失である。
8 ただただ聞いてあげる
聞き上手な人は、話し相手の話したいことを、ただただ聞いてあげることではないだろうか。しかし、教師はなかなかそうはなれない。
子どもが、先生に話しかけてくる。聞いてもらいたいものをもっているから話しかけてくるのである。さらに、聞いてもらうだけでなく、なにか、ほめたり、感嘆したりしてもらいたいのである。
そういう子どもの気持ちは、顔色や言葉つきでわかるから、よく聞いてあげて「よかったね」「すごいね」「うれしかったでしょう」と、感嘆し、ほめてあげる。これが子どもの心にかなう聞き方である。
9 子どもの話を聞くときの教師の声のトーン
聞き方の上手な教師をみていると、子どもの話に応じて、声のトーンを使い分けていることである。その使い分けには二つのポイントがある。
(1)子どもの話の中身による使い分け
子どものうれしい話を聞くときは、明るい快活な高いトーンで応じる。たとえば、子どもが「先生、赤ちゃん、生まれたよ」とうれしそうに話しかけてきたら「よかったね、おめでとう」と、高いトーンの声で朗らかに返事をする。逆に、暗い、悲しい話を聞くときは、声を潜め、低い重々しい声で応える。子どもの心情に共感した聞き方となる。
(2)相手のトーンにあわせる
子どもはうれしい話だと、声のトーンが高くなる。その場合は、子どもの声のトーンよりやや高い調子で応ずる。悲しい話のときは、子どもの声のトーンよりやや低い声で応ずる。
10 子どもの話を聞くときの対応のテンポ
うれしい話の場合、子どものテンポよりやや速くする。悲しい話の場合、子どものテンポよりやや遅くする。
こう受けると、子どもの感情にそった聞き方となり、子どもも話しやすくなり、話がかわせるようになる。こうした、返しの声やトーンやテンポに着目できるようになると、聞く力は飛躍的にレベルアップするだろう。
11 子どもが同じ話をしても初耳のように聞く
教師が知っている話でも、子どもにとっては初めての情報だから得意になって話す。「その話は知っているよ」と言いたいところだが、はじめて聞く話のように受ける。子どもが同じ話をしても「その話は聞いたよ」とは言わないことだ。初耳であるようにして聞く。これがコツである。場合によってはその話を「得意話」仕立ててやることも。
12 話をくりかえして聞く
これは、カウンセリングの「くりかえしの技法」である。たとえば、子どもが「痛い」と言ったら、「痛い」をくりかえして言って「の」を付けて「痛いの」と応える。「先生、オレ、あたまにきた!」と子どもが言ってきたら、教師は「あたまにきたの」と、こんなふうに応えれば「きみの怒りの感情を先生はちゃんと聞いているぞ」と、強く伝える聞き方になり、「暖かい指導」になり、子どもの心を癒やす聞き方にもなる。
とかく教師は子どもの話をまず理屈で聞くことが多い。たとえば、子どもが「寒いね」と話しかけてくると、「薄着しているんじゃないの」と応じる。これは「冷たい指導」である。
そうではなく、まず子どもの話を“感情”で聞くのである。子どもが「寒いね」と話しかけてくると、「寒いの」と応じ、それから「薄着しているんじゃないの」と言えばいいのである。最初の「寒いの」の一言があるかないかで「暖かい指導」「冷たい指導」に大きくわかれてしまうのである。
13 あいづちをうつ
子どもの話は、あいづちをうつと、話のながれがよくなる。具体的には
(1)うなずく
理解していることを伝えるためである。
・小さく、ときに大きくうなずく。・・・・・小・大は感動の大きさをあらわす。
・早くうなずく。・・・・・もっと話してほしい。
・ゆっくりとうなずく。・・・・・よくわかりました。言っていることを理解しました。
・眼を細め、笑顔をつくる・・・・・子どもがさらに話やすくなる。
・あごをしゃくる。・・・・・よくないうなずきである。わかった、もういいよという中断の意味になる。
(2)あいづち
・即座のあいづち・・・・・テンポのよいあいづちは、話をもりあげていく。
・間のあるあいづち・・・・・暗い話には間のあるあいづち
(3)感嘆句
・「ほんと!」「うそ」・・・・・子どもと雑談するとき。個人面接や進路相談の場では使わないほうがいい。
14 短い受けの言葉をたくわえておく
あいづちは身体表現だが、短い言葉をそえると、さらに効果があがる。その短い言葉は、子どもの話に対する短い感想で、むろん、肯定的な評価である。
その基本は、たとえば、子どもがおもしろい話をしてくれたら「おもしろい話だあ」と受ける。こう受けると、子どもは二つのことで感動する。「先生がわたしの話をちゃんと聞いてくれた」「わたしの話を喜んで聞いてくれた」と、うれしくなって、ますます話に熱中する。
しかし、子どもの話の途中なので、短い言葉で受ける。「なるほどね」と感心したり、「それでどうしたの」「いやあ、驚いたなあ」という短い感嘆の言葉をはさんだりするといいだろう。
こういう「受け」ができるのは、共感して聞くからである。そういう受けの言葉を教師はいくつも蓄えておくといい。よく使われる言葉には、
「ほう」「ふーん」「あら」「はいはい」「おやまあ」「へえー」「そうなの」「なるほどね」「なるほど」「よく考えたなあ」「すごいなあ」「心にしみる話だなあ」「がんばったじゃないの」「みんなびっくりしたろう」「いちやく、有名人になったな」「不思議だなあ」「いつ、そんなことしたの」「お母さんも喜んだろう」など。
(家本芳郎:1930-2006年、東京都生まれ。神奈川の小・中学校で約30年、教師生活を送る。退職後、研究、評論、著述、講演活動に入る。長年、全国生活指導研究協議会、日本生活指導研究所の活動に参加。全国教育文化研究所、日本群読教育の会を主宰した)
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