学級崩壊に陥ったり、保護者から訴えると言われた教師は、どうすれば元気になるか
関西のある町で、先生向けの講演会に呼ばれたときのこと。駅に迎えにきてくれた主催者側の男性教師を見て、私はぎょとしました。ド派手なショッキングピンクの服を着ているではありませんか。
「先生、ずいぶん派手なかっこうされていますね」
「いやあ、小野田先生に負けないようにと思いまして・・・・・」
じつは私は、講演会ではとても大学教授とは思えないようなピンクやグリーンのカラフルなジャケットを着ています。しんどい思いをしている保護者や先生を前に、しんどい話をするのです。
その私がくすんだ色の服を着ていては、聴くみなさんの心がますます沈んでしまう。少しでも明るくしなくては。そう思い、ふだんとはまったく違う派手な服を着て、冗談を言って笑いをとったりもしています。
出迎えにきてくれた先生は、私を見るなり、せきを切ったようにこう続けました。
「小野田先生には、できればもっと早く来てほしかった。じつは私が受け持っている六年生のクラスが学級崩壊に陥りました。教師生活20数年で、はじめてのことです。授業がまったく成立せず、状況はどんどんひどくなる一方で、保護者のみなさんからも非難罵倒されてしまい・・・・・」
ことの発端は、いじめ問題でした。しかも、いじめた側は、その県の最優秀教師に認定されていた教師の子ども。その子にしてみれば、学校でも、家でも、いつも品行方正でなくてはならないというプレッシャーがあり、そのはけ口が弱い者いじめにつながっていたというのです。
当然、その最優秀教師である親から学級崩壊を批判されました。「あなたは教育者としての資質が低い」とまで言われたそうです。
また、いじめられた側の親からは、いじめっ子の親も教師だったことから「どうせ同じ教員どうしでかばいあっているんだろう」と突きあげられました。
こんな状態でも、なお教師の仕事を続けられたのは、同僚や上司の支え、そして何より家族の支えがあったからだと言います。
この先生がなぜド派手な服を着ることになったのか。
あるとき、いじめられている子どもたちに対して「おい、元気だそうや」と語りかけたところ「先生だって、いつも同じようなくすんだ色の服ばっかり着て、暗い顔をして歩いているやないか!」と、反論されたそうです。
ここで彼は、ハッとしたそうです。学級崩壊という最悪の状況の中で、わが身をまったく省みてこなかった。前向きな気持ちも、明るい未来への希望も持とうとしなかった。
この子たちは、そんな自分をちゃんと見ていたんだ。そして「先生こそ、がんばれよ」と、そう伝えようとしたのだ。
涙があふれ、彼はすぐに明るい服を買いに走ったそうです。
子どもたちは、目の前の大人がどんな表情をして、どんな未来を想い描いているか、強い関心を持って見ています。それは親でも教師でも同じことです。
本当につらいとき、服装を変えたくらいで問題が解決するなどということはありえません。
でも、服を変えたり、お化粧を変えたり、なんとか踏ん張って笑顔をつくる。そうした小さなことが、いま以上の悪循環に陥らず、どこかで好循環へのきっかけを探り当てることもあるのではないか。私はそんなふうに思うのです。
数年前のある日、教師となった教え子が泣きながら私に電話をかけてきました。「私、訴えられる。教師を辞めさせられるかもしれない」
彼女は小学校一年の担任をしていました。始業のチャイムが鳴っても数人の子がなかなか戻ってきません。何度もくり返すので、反省をさせるつもりで、いつも出入りする中庭側のドアにカギをかけました。もちろん通常出入りする廊下側は開けてあります。
「炎天下に子どもを外に放り出すとは何事だ! 弁護士をたてて訴えるぞ!」と、教育委員会にクレームを入れてきたのです。自分の名は学校に明かさないようにと。
その日以来、彼女の眠れない夜がはじまりました。私は彼女を叱りつけました。
「ちゃんと寝なくてはダメだ。心療内科に行って睡眠薬をもらえ。まず寝ることが何より大切だ。どの保護者が訴えようとしているなんて、わかるはずがない」
「向き合うべきは子どもなんだ。楽しい、はつらつとした授業をする。それが子どもの満足につながって、ひいては保護者の不安の解消にもなる。しっかり寝て、思いっきりいい授業をしろ。もし、裁判になったらいつでも助けてやる!」
それからしばらくして、彼女と話す機会があり、幸いにもなんともなかったようです。
(小野田正利:1955年生まれ、大阪大学教授。専門は教育制度学、学校経営学。「学校現場に元気と活力を!」をスローガンとして、現場に密着した研究活動を展開。学校現場で深刻な問題を取り上げ、多くの共感を呼んでいる)
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