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価値観が多様化した社会状況において法律を理解することが、保護者からのクレーム対応の処方箋となる

 保護者からのクレームの解決の過程で「教師が謝って当たり前」という空気が充満してきてしまっているように思えてならないのです。もっと教師が状況と対等に立ち向かえないか。そんな思いに私はかられていました。
 そんなとき、あるセミナーで弁護士に出会いました。学校のトラブルについて相談をすると、意外な答えが返ってきたのです。
 
「一定の対応を終えた後の保護者からの長時間の電話は、教師側から切ってもいいんですよ。それ以上の長電話が業務上、問題となると判断されれば、電話を切ってもまったく問題ありません」
 
「学校には『裁量権』といって、自分たちで決めることのできる権利があるのですから」と。まさに目からうろこが落ちました。
 
「法的には、教師と周りとの関係は対等である。しかし、法律について、あまりにも教師が無知であるがために、その空気感の中で間違った認識をしてしまっているのだ」と私は気づいたのです。
 保護者の学校に対する期待があまりにも過度であった場合や、保護者の行動が不当な範囲に至る場合は、教育的効果を阻害することになりかねません。
 以前は、常識の範囲で対応できたいたことでも、価値観が多様化した社会状況においては、人によって常識も異なり、解決の決め手とならないこともしばしばです。
 このような状況の中では、社会の客観的な基準となっている法律を利用するのが適切といえるでしょう。
 法律では、誰にどのような権限があたえられ、どのような対応が本来予定されているか、といった法律の枠組みを理解することが、クレーム問題の対応の処方箋となるのではないかと考えています。
 法律の世界では、同じような事案でも、実際の問題解決にあたっては、認定される事実関係、当事者等の状況により、すべて異なります。個々の事案に応じた対応が重要なものとなります。
 法的な枠組みを理解したうえで、個別事案に応じた血の通った対応がなされることが大切です。
 保護者からのクレームの基本的な流れは、
(1)
クレームの内容と要求の把握
 教師は、保護者のクレーム内容(要求事項とその根拠となる事実)を正確に把握するまでは、反論を一切おこなわず、しっかりとメモします。安易な同調や回答をしないよう注意します。調査・検討のため、十分な回答の期限を設定しておくことが重要です。 
(2)
回答に必要な事実関係の調査をし、法的・教育的観点から検討する
 まずは、要求の根拠となる事実関係の調査を行う。事実関係がつかめない場合は、回答の期限を延期してもらいます。
 判明した事実関係をもとに、法律的な観点から要求に応える義務があるか、教育的な観点から応えるべきかを検討します。
(3)
クレームに回答する
 クレームの内容が正当と判断した場合は、その責任の範囲と対応を決定し保護者に回答します。必要な範囲で謝罪し、対応の根拠を説明して、学校の今後の対応について理解してもらうよう協議を重ねなます。保護者の要求にすべて応じるかどうかは別の問題です。
 クレームの事実関係が認められない、事実があっても法的な義務が認められない、教育的な措置をとることが妥当でない場合は、要求を拒絶する回答を行うことになります。根拠を示して、明確な回答を行います。
(4)
クレーム回答後の対応
 保護者の要求が受け入れられないと回答した後、保護者から限度を超えて執拗に要求が繰り返される場合は、不当要求として対応を検討します。
 要求をのませるための暴言などに対しては、毅然と対応し、限度を超える電話については「回答した通りである」と、それ以上は応じないようにします。
 法的な観点での見解の相違であれば、弁護士に委任し、裁判等の法的に決着が望ましいでしょう。
 納得できない保護者が、掲示板やSNSで中傷することなどがあります。このような場合は、保護者全体への説明会を設け、調査結果の公表など、保護者全体に事態と正確な認識を共有してもらうようにすべきでしょう。 
(
丸岡慎弥:1983年神奈川県生まれ、大阪市公立小学校教師。教育サークル「REDS大阪」・銅像教育研究会代表、事前学習法研究会会長)

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