子どもの心をつかむ話し方のうまい教師になるには、どのようにすればよいか
国語教育で有名な大村はまさんは「私は、ちょっとした小言にも話の構成を考えて話します」と言い「はじめは、こんなことばで、中にこんな例を入れて、終わりはこんなことばで結ぶ、と大まかな構成ですが、こんなことを考えて小言を言います」と述べています。
このことは、いかに話というものを大切にされているか、教師としての生き方をいかに厳しくとらえられているかを感じさせてくれる。話ことばを愛し、話そのものを非常に大切にしている姿勢がひしひしと迫ってくる。
話の準備と話す技術と能力の総合的な力が「話すということ」なのだと感じるのである。自分の話を聞いてくれる相手を尊重するからこそ、話す力を身につけようとするのである。準備していない話、出たとこ勝負の話は、相手を甘く見て、バカにしている現われである。
私は見たり(テレビもふくむ)、聞いたり、読んだことで、これはと感じたことは、必ずメモする。メモはその日のうちに記録する。メモを見ながら、自分の考えを書いてみる。こういう習慣が私の話の準備になっている。
上手な話し方は、話の内容の適否が大きくひびいてくる。子どもの理解力、生活経験によって話の中身を調整する必要がある。
話すことは、声のひびき、韻律、抑揚、全体の調子、話し手の表情、ちょっとした身ぶり、話す人の人柄が醸し出すもの、その場の雰囲気、そういうもろもろの全体が、聞き手にイメージをつくらせると思う。
好ましい話は、聞き手の身になって話すということである。聞き手にとって好ましい話になるためには、自分が人の話を聞くときに、どんな話が好ましいのか、うんざりなのかを調べるとよい。好ましい話のためのポイントは
(1)短いこと
長い話はくどくなる。好感が消える。もう少し聞きたいと思うところで止めておくのが、いい話のコツである。話に熱が入ってくると、自分本位になる。聞き手はそれを感じて鼻持ちならなくなる。
(2)わかること
自分の言いたいことは、これとこれだと、自分でわかることが大切である。その確認のために、話す原稿を書く。話の全体構成、筋書き程度はメモとして持っていていいが、原稿を読み上げる話し方は、聞き手に訴える迫力がなくなる。
「話すときは、書くように話せ」と言われるように、話すことばは自分のハートにあり、それを文章にしていくつもりで語ればいい。
自分が考えながら話すとよい。それが聞き手にとって考えながら聞くということになって、自然な「話の間」が作られることになる。
(3)言いたいことは三つ以内にしぼる
多くの先輩たちが経験的に話の要点は三つ以内がよいと指摘している。話し手が三つ以内にしぼり込むことで、焦点化できる。それだけ訴える力があるといえる。生徒指導のときの話に迫力がでる。
(4)単文の積み重ね
わかりやすい話は、単文の積み重ねになっていることが多い。単文は「今日は寒い」というような主語と述語が一回だけである。わかりすさ、テンポの明快さが現代感覚にマッチする。
教室での話し方は新聞の文章を身につけるとよいといわれる。自分の話を録音してみると、自分の癖がわかる。
(5)韻律を大切にする
日本語独得の七五調とか何かの標語など、語感のひびきに留意し、心地よいことばを使うようにする。例えば「ゆずり合う、心のゆとりが、身を守る」
(6)論理性がある
生徒に語るときは、比喩など交えてわかりやすく話したりするが、だからといって論理にはずれるようであってはいけない。
(7)声の質、歯切れがよい
子どもたちの耳に心地よく受け取れるように、教師は自分の声を変えていこうとする姿勢が大切だ。アンウンサーが毎朝、口を大きくあけて、はっきりした大きな声でアイウエオ・・・・と体操するという。これは歯切れをよくする訓練であると聞いた。
自分の気にいった文章を読み聞かせるつもりで、感情をこめて読み、録音して聞いてみると訓練になる。
(8)腹式呼吸で、音声にボリュームとひびきを
吐く息の量が少ないと音声にもゆとりがなく、貧弱でボリュームがでない。話す前は数回腹式呼吸して、息を十分吸い込むようにする。
腹いっぱい息を吸い込み、ゆっくり吐きながら話をするようにする。ひびく声が出せる。力強い張りのある話を引き出すことになる。
聞いていてすてきだなと感じる講演がある。その人が話す調子を真似て話してみる。間の置き方、息つぎなどを体験してみる。こういうことも話す練習になる。
(9)話すとき、話し手と聞き手がともに考える
何かを話すとき、聞き手の子どもとともに考える。考えながら話し、話しながら考える。そうすると自然に「間」が出てくる。
この「間」によって、ともに同じ歩調で考えることになる。教師が何か教えてやるという態度でなく、話し手の教師も常に学んでいるという態度である。
(10)切れ味の鋭い話
話が一本調子でなく、山あり谷あり平たんな道ありで、適当な変化があることが望ましい。話の筋にも緩急の変化があること。そして話の筋が明快なことが大切である。
スカッとした感じ、爽快な感じが残る話がいい話である。
(関根正明:1931年生まれ、小・中学校教師、指導主事、東京都公立中学校校長、大学助教授を経て、元山形大学講師)
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