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まじめで誠実な教師の心が壊れていく時代になった

 私どもの学校教職員の専門病院メンタルヘルスケア・センターでは、初診にこられた場合、主につぎの三点についてお話を聞かせてもらいます。
(1)
この方が精神性疾患のレベルに達しているのか。また、症状レベルでどんなものをもっているのか。悩みのレベルなのか、それとも、もう病気に入っているのかを診ます。
(2)
環境要因はどうなのかについて聞きます。学校でのストレスが決定打になっているのか、もしくは家族のことが決定打になっているのか、どちらがどのぐらいか、ということを診ます。
(3)
さりげなく性格的な偏りはどのぐらいかを診ます。これは悪いという面ばかりではありません。先生というのは、まじめ、誠実、がんばりすぎる、几帳面であるというよい面をもっています。
 それが行きすぎるという場合があるので、それがどの程度なのか、もしくは性格に著しい偏りがあって周りを大変な目に遭わせていないか、というようなことを話の中でさりげなく見立てていきます。
 
患者さんは一つの要因で倒れるというのはレアケースのように思います。三つのうちどの要因がどれだけの割合で関係しているかを私どもが最初の段階で見立てていきます。
 それによって「薬物療法」「休業」「精神療法」のいずれかを行うのかなどを決めて、患者さんに説明をします。休みに入ることが多いように思います。
 うつ病の教師が最も多いのです。うつ病というのは、不満やぐち、怒りを外に出せないために自分のほうに矢が自分のほうに向いてしまい、自分自身を攻撃することによって生じる病気だといわれています。
 教師が、怒っていいところで怒れないという状況に追い込まれているために、自分を責めざるをえなくなって、だんだん心が痛んでくる病気だと私は考えています。
 患者さんには 「脳内の物質の代謝異常です」と説明するようにしています。この代謝を良くするために休みや薬が必要であることを伝えて、納得してもらうようにしています。
 うつ病の背景にある要因は
(1)
多忙化
 教師の「忙しさ」があると思います。教師が多忙で子どもと遊ぶ時間がないのです。私は多忙に加えて孤立感で倒れると思っています。同僚や管理職が必ずしも助けてくれる余裕があるとは限りません。皆さん自分のことで精一杯という状況があります。倒れた多くの教師は「支えられているという実感がない」と言っています。
(2)
人間関係の複雑化
 人間関係が複雑で、そのプレッシャーに耐えられないということがあると思います。子どもや保護者そして地域とあたりまえのように関わっていかなければなりません。転勤をきっかけに孤立感に悩むということが起こります。
(3)
子どもや保護者の変化
 子どもが変わった、保護者が変わったということです。保護者の権利意識が強くなり「やってもらってあたりまえ」ということで大変です。
(4)
地域のつながりの変化
 何か問題が起こると、地域で抱かえるはずの問題が、学校なら仕返されなと、ストレスのはけ口として学校に持ち込まれるということが頻繁にあります。「コンビニの前に生徒がたむろしているので何とかしてほしい」という問題にしても、それはコンビニの問題なのですが、学校に言ってきます。
(5)
環境の変化
 教師は五十代になって頻繁に職場異動をくりかえします。それが、うつの引き金になっているというケースは多いのです。せっかくできた人間関係とチームを奪われます。
 教師であるというだけで、うつになりやすい背景には「支えてくれるつながりを失う」「環境の変化」という要因があるのだと思います。
 つぎに多いのが心身症といわれるものです。「腰が痛い、肩こりがひどい、頭痛がひどい」と様々な身体の症状を訴えるのですが、検査の結果はどこも異常はありません。それでも「おかしい、でもどうしても頭が割れそうに痛い」というようなケースです。
 今は、変な教師が倒れるのではなくて、まじめで誠実だからこそ倒れるという時代になっていると思います。だからこそ、制度をきちんとつくって、しっかりと働ける人材を教育現場にお返ししたいと思います。
 ですが、管理制度ができて、先生方は何かビクビクしています。管理職も教師も謝ってばかりです。それはちょうど指導力不足教員の認定や教員評価制度がはじまった頃から起こっているように私は感じています。
(
井上麻紀: 臨床心理士。公立学校共済組合近畿中央病院メンタルヘルスケア・センター主任心理療法士。学校教職員の専門病院で、教員に特化したメンタルヘルスケアや職場復帰支援している)

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