保護者からのクレームを「しなやかに受け止める」には、どうすればよいか
新学期が始まって間もないころ、ある教育委員会に電話がかかってきた。「担任が頼りない」「仲の悪い子がいて、同じクラスにしないでと言っておいたのに、同じ組になって子どもが苦しんでいる」から始まる。
「あーあ、またか」と思いながら「それで」と指導主事が促すと「クラス編成をやり直してほしい」と主張する。
それが何回もかかってくるので「教育委員会のほうまで来られませんか」と誘った。母親が来て、学校がいかにひどいかを、とうとうと説明する。
だが、話を聞くうちに、どうやらわが子が担任とうまくいってないことではなく、学校で暴れたり、家でも子どもが親の言うことを聞かないことに困り果てていることが背景にあることが分かり始めた。
すかさず「お子さんのことで困っておられることはありませんか?」と穏やかに聞くと、母親の語調が変わり始めた。「いつでもお聞きしますから、またどうぞ」と言うと、涙をぬぐいながら、母親はお礼を言って帰って行った。
小学校でテストを子どもに返却し、保護者の確認のための印鑑をもらってくるように指示したが、たまたま採点に小さなミスがあった。
保護者からの抗議の電話が学校に入り「それでは私が後で直しますから、取りあえず保護者の方の確認印をお願いします」と言ったところ「お前の方が間違っているのに、後で直すから印鑑だけ押せとはどういうことや!」と大変なけんまくで、ばりぞうごんの嵐。
電話口で平謝りに謝ったが、これは家庭訪問した方がいいかなと思って、家庭訪問したところ「わざわざ来ていただいて恐縮です」と手のひらを返したような態度になったという。
聞けば、最近になって子どもが親の言うことを聞き入れないことが続き、親子でのトラブルが絶えず、たまたまその日もテストの成績のことで口論し、その勢いで怒りの電話をかけてきたとのこと。
「学校でも、気をつけながら、お子さんに声がけしてみます」と言ったところ、逆にお礼を言われたという。
保護者のクレームで、最初の切り口が、実は「見せかけ」「きっかけ」にすぎないことは多くある。
保護者が学校や教育委員会などにモノ申すときには、不満や不信があることは当然であるが、相手との関係で「優位に立つ」ためには、まずは「学校や教師に非がある」ことを伝えることが常套手段である。
苦情や文句を言われることが好きな人間はいない。言われ始めた途端「またか、苦手なんだ」と思いながら聞くと、つい「それは違います」とか「ちょっと待ってください」と、自分たちの落ち度をいかに少なくするかという気持ちが高まってくる。
保護者も、かたくなに身構える学校や教師に、腹が立ち「悪いと思っているんですか!」と、話し合いは平行線のまま。こうなると出口は見つかりにくい。そのような保護者に「ホンネは何ですか」とは、おいそれとは聞き返せない。
それでは、どうすればよいのでしょうか。
すぐに反応するのではなく、ひと呼吸置いてから、自分たちの落ち度の部分がどこにあるかを見定め、相手の怒りはそこにあるのか、別のモノが重なって激しくなってくるのかを、腹をすえて向き合いながら推測することが大事である。
私は、この当たり前のことでもある「表面に見える訴えではなく、相手の主訴が何かを見定めること」や「主張の背景に何があるかなと思って話を聞き始めること」の大切さを各地の講演で伝えている。
私の講演を聴いた、ある教頭は「おかげでクレーム対応が苦に感じなくなりました」とうれしそうに言った。「次に何か起きへんやろかと、ワクワクしとるで」とまで言うので「それはアカン」とクギを刺しておいた。
自信は過信につながると、慢心してしまう危うさになるが「解決の出口を見つけた」喜びと実績は、トラブルを受け止めるしなやかさを人に与える効果はあるのだろう。解決が極めて難しいケースは、また別であるが。
(小野田正利:1955年生まれ、大阪大学教授。専門は教育制度学、学校経営学。「学校現場に元気と活力を!」をスローガンとして、現場に密着した研究活動を展開。学校現場で深刻な問題を取り上げ、多くの共感を呼んでいる)
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