心の悩みや苦しみをなくすには、どのようにすればよいのでしょうか
実に多くの人々が苦しんでいます。生きがいが見出せないと悩んでいます。何をしても楽しくないと思っています。どうすればよいのでしょうか。
心に苦しみを抱かえていては、地位も、財産も名声も意味を持ちません。「一番大事なのは心であり、心が苦しまない」ことほど大事なことはないのです。
これこそ釈尊が一生をかけて伝えようとしたことなのです。私は心を楽にする方法として、禅の考え方が非常に大事だと思うようになりました。
禅とは、私たちが「本来の心」に気づく方法です。人間の心は不思議なものです。心を覆う暗雲に気づくだけで、サーッと晴れ、ものすごく楽になれるのです。
私たちを苦しめる最大の悩みは「過去を思い出す」ことです。失敗、つらい体験、受けた侮辱などを思い出し、人を憎み自分を責めます。
恨みを晴らそうとしても何も得るところはないのです。その結果「自分はだめだ」と自己否定の気持ちがつのってきます。
釈尊の「諸行無常」(すべてのものは一瞬として同じ状態になく、別の状態に変化する)の考え方が、この苦しみから私たちを救います。
「過去」の私や他人と「今」の私や他人は「別人で関係ない」ことがわかります。今のこの瞬間にしか存在しないということです。
釈尊は、私たちが苦しむのは、不必要なことを考え、思い出すからだと言っています。考えても意味がないことは考えない、それが最も大事だというのです。
過去を考えなければ地獄は生じません。心を気楽に保つためには「過去を思い出さない」のひとことに尽きるのです。
将来は「思わず」が非常に大切です。考えることで将来への不安が生まれ、心配が強められるからです。将来への不安は、他人との比較が原因である場合が多いので「比べず」が重要なのだとわかってきます。
何にもならない心配をして心を労するのは、ばかげています。そんな心配をしないよう、私は「思わず、思い出さず、比べず」と、毎朝、自分に言い聞かせています。
思いだしても考え続けないことが、心を楽にする最も大事なことだと、私は思うようになりました。そこで、何かが思い出されたときは「五秒待てば必ず消える」を実践するようにしています。
五秒の間は、思い出したことに取り合わないのです。すると、本当に嫌な思いが消えるのです。「五秒、妄想に手をつけないようにしよう」というのが、今の私の生き方です。
釈尊は、私たちは無限の能力のある仏と同じ心を持っていると悟りました。能力を発揮できないのは、妄想、煩悩、欲望の雲が心を覆っているからです。この雲をできるだけ少なくするのが禅の修行です。
「禅は考えない修業だ」と言った人がいますが、まさにそうです。心を苦しめるさまざまな思いに満たされています。それを「考えない」「思いださない」のが禅の修行です。
道元禅師は、座禅すると「宝蔵自開」するといいました。私たちの持っている無限の能力の蔵がおのずから開かれ、力を使うことができるというのです。何とすばらしいことではないでしょうか。
私は毎朝、座禅しています。「心を正したい」「心を乱すことを考えない」ためです。
私たちが「考えまい」「思い出すまい」とするのを邪魔するものがあります。いうまでもなく人間関係です。
人間関係で大切な、他人への対し方は、他人の自分への対し方と合わせ鏡であるということです。
人間は、自分を嫌う人を必ず嫌います。不思議なくらいそうなのです。ですから、人に好かれようと思ったら、こちらが好きになる以外にないのです。
相手に親切にし、やさしくします。相手が反応しなくても、やめてしまってはいけないのです。こちらが思うように相手は変わらないからです。続けることです。続けているうちに相手の心は必ず開けます。
あせるのはいけません。「なるようにしかならない」「時節がくればわかってくれる」と気楽に構えて努力すればいいのです。やがて事情が変わったり、理解してくれたりして、関係はよくなるでしょう。
人間はどんなよい意見でも嫌いな人の言うことは信じません。つまり自分を信じてもらうには、まず好かれることが大切で、好かれるにはお世辞も大事だということです。
人をほめることは非常に大事なのです。欠点は取り上げず、よいところだけほめると、人間関係をよくします。人は欠点を批判されると非常に傷つき耐えることはできません。
私たちは意識せずとも、人の笑顔を見ると自分の顔もやさしくほころび笑顔になるのです。人は楽しい思いをしたいのです。明るい笑いがあることを望んでいるのです。
ぜひ他人に笑顔で接しましょう。あなたが笑いかければ、それを見た相手は必ず楽しくなり、笑みを返すのです。
私は、自分が欠点だらけだと思っていた頃は、自分自身が嫌いでした。同時に自分を批判しそうな人を嫌いました。その当時は、多くの人間関係がうまくいかなかったものです。
ところが自分を好きになるように努力すると、他人の批判にもそれほど過敏でなくなり、嫌うことも少なくなって、人間関係が万事うまくいくようになったのです。
(高田明和:1935年静岡県生れ、ニューヨーク州立大学助教授、浜松医科大学教授を経て浜松医科大学名誉教授。専門は大脳生理学、血液生理学。医学博士。テレビやラジオ、全国での講演を通じて、心の健康に関する幅広い啓蒙活動に勤しむ)
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