教師が教育のプロとなるための条件とは何でしょうか
指導力不足の教師がいる。子どもが大きく変化しているのに、教師の方が変化できないでいるのだ。わたしは、ほんのひとにぎりの教師が指導力不足に陥っているのであって、多くの教師は、そうでないと考えている。プロをめざしてがんばっている教師がたくさんいる。
教育のプロとは、何だろうか。教師の場合、真のプロとはどんなところをみればよいのだろうか。幅が広くて、これとこれというようにはいかない。でも、何といっても
プロ教師の第一条件は
「子どもを引きつける授業ができる」
ことであることは間違いない。
授業ができないのに、理屈ばかりいって専門家ぶっているのは、本物ではない。
わたしの夢は、子どもの前に立っただけで、子どもが集中し、語りかけてくるようなプロ教師になることである。
子どもを引きつけるには、一つは、人間性である。子どもが「面白そうだ、何か話しかけてみたい」と、思うような存在感のある人間性でありたい。これをみがかなくてはならない。
「先生の笑顔をみただけで、勉強が面白そうに思える」
といった雰囲気をもった人間性である。こういう雰囲気をつくり出さなければならない。
プロ教師の第二条件は
「新しい角度からの『発問』ができる」
ことである。例えば、
「どうして海の中を列車が走っているのでしょうね」
といった発問は、さり気ない発問のようにみえるが、実は深く広い教材研究の中から、にじみで出たような発問である。
日本最初の新橋から横浜間の鉄道は、その三分の一は海の中に盛り土をして、その上を走らせたのである。
明治のはじめの、しかも家も沢山ないような海岸を走らせるのに、どうして反対したのか。たぶん反対があってこのようになったのだ、といったことに気づかせるための発問である。
発問のしかたで、授業は一変する。
「この紙で郵便ポストを作りたいのだが、どうだろう」
「バスの運転手は、どこをみて運転しているのでしょう?」
「東京23区に、牧場はあるでしょうか」
こういった発問は、子どもをゆさぶり、授業のあり方を変えてきた。
プロ教師の第三条件は
「明確な指示ができる」
ことである。
明確な指示ができていれば、子どもはきちんと対応する。
よくみかける指示は、何を指示しているのか、わからないものが多い。プロ教師の指示は明確である。
プロ教師の第四条件は
「オリジナルな教材をどれだけ持っているか」
である。
教師は教え方のプロではあるが、教える内容のプロではなくなってしまっている。教科書ばかりに頼っている間に、自分らしい教材開発を忘れてしまったのではないかと、わたしは心配している。
輪郭のはっきりした、その人らしい教材をもつことだ。これなくしてプロとはいえない。
わたしが訪問する学校の教師たちは、毎年、新しい教材で授業をしてみせてくれる。ほんの少し努力しただけで、教材開発ができるのである。あとはやる気の問題だけである。
面白いことに、一つの面白い教材を開発すると、次々に面白い教材がみつかる。教材を開発するには、関係的な見方・考え方をすることが得策である。
例えば、いちじくを教材化すると、みかんや柿、りんご、梨、ぶどうなどが自然に教材化されるのである。
つまり、一つみえるようになると、他のものがみえるようになるのである。
プロ教師の第五条件は
「対応の技術を持っているか」
ということである。
子どもが発言する。それに対して教師がどれだけプロらしい対応の技術をみせるか、である。
「間」が大切である。
間ぬけになったり、間のびした対応ではどうしようもない。適度な「間」で、適切な対応をすれば、子どもはやる気を出して追及する。
バスガイドの中には「対応の技術」にたけた人が多い。客を喜ばせるコツを心得た対応をする。
ふだんから、子どもとのやりとりのしかたを工夫することだ。工夫しているうちに、あるときコツを会得することができる。
プロ教師の第六条件は
「板書の技能」
をあげたい。
しっかりした板書ができなければ、とてもプロ教師とはいえない。
わたしは、常に「芸術的な板書」をしたいと願って努力している。子どもを引きつけて離さない板書技能をみがきたいものだ。
(有田和正:1935-2014年、福岡教育大学附属小倉小学校、筑波大学付属小学校,愛知教育大学教授、東北福祉大学教授、同特任教授を歴任した。教材づくりを中心とした授業づくりを研究し、数百の教材を開発、授業の名人といわれた)
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