教え上手な教師とは、どのような教師でしょうか
子どもを育てる教え上手な教師は、多く教えることよりも、少なくしか教えないことに知恵を絞る。なぜならそれが、子どもをより深く考えることに、導くきっかけになるからである。
少なくしか教えないことが大切になってきます。花も水をやりすぎては根腐れしてしまいます。水は足りないくらいのほうが花もよく育つのです。
けれども、私たち教師は、つい水をやりすぎてしまう。親切で熱心な教師ほど「なぜ、これがわからないんだ」と、あれこれ口をはさみ、手を出す、過剰な指導をしてしまう。
子どもが自ら「はてな?」と疑問を抱き、好奇心を働かす前に、エサを口に運ぶように教えてしまう。
そして、その教えすぎが「また、先生が教えてくれるだろう」という頼る心を植えつけて、子どもの主体性を損ね、依存性を育ててしまうのです。
したがって、答えをすぐには教えない忍耐力が必要になってきます。
子どもが考えはじめたら、しばらくだまって見守る。迷路に入ったり、堂々めぐりをはじめたら、少しだけヒントを与えて押してあげる。ふたたび考え出したら、また、しばらく見守る。
この「待つ」と「押す」のくり返しが教える技術のツボであり、本当に子どもを育てることになるのです。
教えていることが、教わっている子どもに、いかにも見え見えなのは失格です。「見えない」のが理想です。
答えを隠したり、答えるまで遠回りさせたりしながら、大事なことほどすぐには教えない。最短距離では教えないことが肝要なのです。深く教えようとしたら、回り道を恐れないことが大切なのです。
ただし、回り道するときに気をつけなければいけないことは「教え惜しみ」をしすぎないことです。解決がいつまでも得られないと、途中でざせつしてしまいます。限界が見えたら、解答を与えて疑問を氷解してあげることが肝心なのです。
思考を深める高度な発問をする前に、子どもが思考の入り口まで誘導するやさしい質問が重要になってくるのです。「ポストの色は何色ですか」と、だれでも手をあげられる場面をつくるようにします。すぐれた教師ほど「どんな子どもも答えられる」問いをいくつか用意しているものです。
あえて、やさしい課題に取り組ませて成功体験をさせて、それを次の、よりハードルの高い課題への意欲につなげていく。こうした「布石」は、必ず必要になってくるのです。
少ししか教えない、大事なことほど教えない、正しいことばかり教えない、という「教え惜しむ」指導法によって、子どもたちの学ぶ意欲を引き出し、その考えを深く豊かに耕すのです。
「教え惜しみ」の技術の内容をかいつまんでいえば、
・答えをすぐには教えず、自分の頭で考えさせる
・すぐに答えを要求せず、ゆっくりと考えさせる
・あえて大事なポイントを隠してヒントだけ与える
・わざとあいまいなことや間違ったことを提示して、固定観念や既成概念に揺さぶりをかける
そのような「自ら考えさせる」技術を使うことで、子どもたちを深い思考へと誘導するのです。
学校は、子どもを育てようとして、熱心な教師ほど、かゆいところに手を届かせるようにして、懇切ていねいに過剰に教えてしまうものです。
しかし、何もかも教えようとすると、かえって少なくしか伝わらないものです。また、教えすぎは教わる人の考える主体性を奪ってしまうことにもなります。
(有田和正:1935-2014年、福岡教育大学附属小倉小学校、筑波大学付属小学校,愛知教育大学教授、東北福祉大学教授、同特任教授を歴任した。教材づくりを中心とした授業づくりを研究し、数百の教材を開発、授業の名人といわれた)
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