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親から「子どもも育てたことがないくせに」と若い教師を不安に思ったとき、どうすればよいのでしょうか

 ある保育園長が、新卒のころ園児のトラブルで親と話をしていた際に「子どもを産んだこともないくせに!」と面と向かって言われて本当に落ち込んだことが何度もありました。
「私だって一生懸命なのに」と、腹が立って泣いたことがあります。 
 当時の私は、ちょっと上から目線でモノを言っている雰囲気を漂わせていたんだろうと思います。
 相手の親の家庭の状況をおもんばかったりすることもなく、親の不安やグチ、わが子への思いは聞き流して、ともかく伝えておかなければいけないという一心から、保育園側として言いたいことや論理だけを、押しつけていたんだろうなぁと思います。
 ようやく30歳を過ぎてから、自分も結婚し、子どもができて、働きながら子育てをすることが、どんなに大変かがわかった。
 職場でやらなければいけない仕事は山のように降ってくるし、家のこともやらなきゃいけないし、わが子がどこかで悪さをして、他人に迷惑をかけているのではと不安に思ったり。
 そこでようやく、多くの親が、ときとして激しい口調で「子どもも産んだこともないから、わからないでしょうけど!」と、つっかかってこられる意味がわかりました。だって、ついついそう言いたくなりますもん。
 
「私だってつらいのよ。そのことをちょっとは先生が受け止めてよ!」という、一種の悲鳴にも似た思いがこみあげて出てきたのかもしれません。
 それにね、正直いって、相手が自分より10歳も年下だと「こんな若い先生に、わが子を任せて大丈夫かしら」という漠然とした不安がよぎるのは普通です。
 しかし、若い先生の登場を、子どもたちは待ち望んでいます。だって若くて元気だし、いっしょに遊んでくれるし、話題だって合うことが多い。みずみずしさは、最高の宝物なのです。
 若い教師は「好きで教師になったので、子どもたちとの関係づくりはいいけれど、保護者対応はだいぶ苦手です」という人も多いと思います。
 だって「モンスターペアレント」という言葉も流行っていますし、そもそも大学では、保護者対応について何も教えてもらってないし、不安が先に立つことがありますね。
 先ほどの保育園長の話のように、誰もが一つや二つの失敗や苦い経験を持っています。その先輩教師から、いくつかのアドバイスを謙虚に聞いておくと、いますぐには実行できなかったとしても、一年後にはけっこう役立つと思います。
 恥ずかしくて、そんなこと隣の先生になんか聞けない。忙しそうだし、邪魔しちゃ悪いからと思っていてはだめです。
 誰もが失敗を重ねて、ときには叩かれて、少しずつ自信をつけていくのが若い教師の特権でしょう。
 隙を見せないようによろいで身を固めていると、他の教師も、どうアドバイスしていいかわからなくなります。少し肩の力を抜きませんか。
 ある男性小学校教師が新任で五年生を担任したとき、保護者から「なぜ大事な五年の担任が新人なんだ」と書かれた連絡帳を10冊も受け取ったそうです。その地域は私立中学校への受験熱のたいそう高いところなので、五年生は一つの筋目。
 それで、その教師は「一件一軒、電話をかけては、どういう意味で書かれたんでしょうか?」と聞いたそうです。
 表に見える保護者からの攻撃的な言動にたじろくことはあるでしょうが、ビクついたり、うろたえたりせずに、教師のほうから一歩先の行動を起こすことが大切かもしれませんね。
 もし、あなたが「子どもも育てたことがないくせに!」と親から言われたら、あなたはどう反応しますか?
 
「そうなんです。まだ若くてすいません。経験が足りなくて」と、このように切り返すと、相手もいくぶんビックリします。事実なんですから、素直に認めるのです。
 そこで、すかさず
「だから、教えて欲しいんです。学校では、お子さんはこういう側面を時々見せることがあります。お家ではいかがでしょう。親御さんなりに感じたり、知っておられることがあれば、教えていただけないでしょうか?」
と言えば、今度は保護者の方がしゃべらなくてはいけなくなるのです。「えぇー、私が答えなきゃいけない場面になっちゃったわぁ」と。
 会話は言葉のキャッチボールなのです。保護者にボールを投げ返せば、そこから会話が始まるのです。
 子どもを真ん中に置きながら、話を進めていく。教師が感じている学級での子どもの状況。それに、子どもの家庭での様子を交えながら話し合う中で「等身大の、その子の評価」を話し合い、保護者自身が願っていることを確認してみませんか。
 子どもの課題を確認して、その成長を喜び合えるところに、教師と保護者の関係づくりの基本があるのです。
 保護者は、わが子が一番です。「一分の一」で見る側面が強いのです。他方で、教師はクラスの中の一人として見ることが多く「40分の一」「30分の一」として考える傾向があります。
 お互いが歩み寄り、そのズレを修正することが、子どもの本当の姿や思いを、いっしょになって確認し手を携えることにつながります。
 保護者と教師は敵ではありません。保護者を怖がらずに、子どもの成長を、ともに喜び合う存在なのです。
(
小野田正利:1955年生まれ、大阪大学教授。専門は教育制度学、学校経営学。「学校現場に元気と活力を!」をスローガンとして、現場に密着した研究活動を展開。学校現場で深刻な問題を取り上げ、多くの共感を呼んでいる)

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