モンスターペアレントのタイプによって無理難題にどのように対応していけばよいのでしょうか
モンスターペアレントが学校や教師に突きつけてくる無理難題は想像を絶するものがあり、どんな場面で何を言いだすか、まったく予想もつきません。
現実の事例を分析していくと、次の5つのタイプに分類できます。
(1)わが子中心型
なんでも自分の子どもを中心に考えてしまう過保護・過干渉タイプの親たちです。たとえば「自分の子どもに学芸会の主役をやらせよ」といった、勝手な主張をしてきます。
問題は偏った愛情にあるわけです。ただ断るのではなく、親の主張をよく聞いてみるべきです。
そのうえで「どうすることが子どものために正しいのか」を、しっかりと話し合い、教師はその子を軽んじているわけでなく「親と同様に大切に思っている」と、しっかりと伝えていかなければなりません。
子どもへの愛情に共通の基盤が作れたら摩擦は小さくなり、互いを理解できるようになっていきます。
(2)育児放棄型
子どものことに関心がなくて、子育てを放任状態にしている親たちです。大人として未熟で自己中心的な考えが根本にあります。たとえば「学校からの呼び出しにはいっさい応じない」など、親の責務を果そうとしないので、教師にとって非常に厄介な存在です。
親が精神的・生活的に自立できていないことが多いので、教師から威圧的に要求してはいけません。不信感をつのらせるだけです。
相手を大人として尊重しながら、ていねいさや親切心をもって接していくことが大切です。
そうしているうちに「今度の先生は違う。私にも子どもにも親身になってくれる」と、受けとめてもらえたならば、学校に協力する姿勢もめばえてきます。
(3)常識がない型
常識と非常識の区別がついてない親たちです。サービス過剰の社会の影響によるのか、急速に増えてきたタイプです。たとえば「深夜や早朝でも、かまわずに教師に電話をかけてくる」など、教師の私生活を無視してくる。
過剰サービスに慣れきっている人たちです。どんな要求をしても通るものと、とらえています。
「非常識すぎる」とはねつけたくなる教師も多いでしょう。
しかし、教師も外から見れば、非常識なところをもっていると自認できていれば、もっと心を広くして親の話を聞けるようになってくるはずです。
(4)学校依存型
本来、家庭でやるべきことまで、平気で学校に頼んでくるタイプです。駄々っ子のような甘えがあります。たとえば「毎朝、家まで子どもを起こしに来てほしい」と、その要求はあまりに身勝手です。
世間の常識に反しています。しかし、根本的な心理はわが子中心型と似ているところもあり、根っこの部分では悪い人ではない場合がほとんどです。
親が「朝、起きられなくて」と口にしたら「お母さんも大変ですよね」と教師があいづちを打ちながら、親の話を聞いてあげる姿勢が大切です。
こうした親は、人にぐちを言ったり、甘えたいという気持ちが強いだけです。そのように要求したくなる背景をよく理解して、うちとけていくことです。
(5)権利主張型
給食費は義務教育だから払う必要がない、など自分の要求を通すために法律や権利を振りかざしてくる親たちです。
このタイプの親たちは、ささいなことでも、すぐに教育委員会などに訴えがちです。
学校と張り合い、言い負かす知的快感を覚えるタイプが多いと考えられます。
このタイプの親に対しては、理論で言い負かそうとするのではなく、親の主張にじっくりと耳を傾けてあげることが大切です。ただ、同意をしないように心してください。
権利論ではなく、わが子が給食のたびに肩身の狭い、辛い思いをしていることを伝え「本質論と分けて考えていきませんか」と提案すれば、素直に聞く耳を持ってくれることでしょう。
とにかく現在は、親も教師もストレスをためている時代です。親からムチャな要求を突きつけられれば、ストレートに反応しすぎて、事態をこじらせるケースが多いようです。
まず、親の話に耳を傾ける姿勢がとにかく重要です。それまで敵意をむき出しにしていたような人ほど、転換しやすいともいえるでしょう。
「今度の先生は違う」と親近感を持ってもらえたならば、教師への接し方は変わってくるものです。それほど、親の話によく耳を傾けることが大事なのです。
また、常日頃から親とのあいだに親密な信頼関係が築けていたならば、モンスターペアレント問題などは、ほとんど発生することもなくなります。
仮に、ちょっとしたことで誤解が生じて、親が学校にかけつけてきたとしても、日頃からの良好な関係があれば、短時間でその誤解が解けるようなケースも珍しいことではなくなるはずです。
私は「学級便り」を毎日、保護者向けに発行して、保護者との関係は良好に保てていたと自負しています。
学級便りでなく、毎日ひとりずつ順番に保護者に電話するだけでもいいのです。「今日、○○くんは、こんないいことをしましたよ」と連絡するだけでいいのです。
「いちいち連絡してこなくてもいい」と返してくる親に「お母さん、そんなこと言わないで聞いてください。本当に○○くんは立派だったんですから」と続けると、電話を切られることはまずないはずです。
自分の子どもをほめられてうれしく思わない親などいないからです。
私は、毎日3人の子どもの、いい部分を発見してノートにメモしていました。あの子のメモが少ないと気がつくと「よし、あの子のよいところを見つけよう」と集中すれば必ず新たな発見があります。
よいことを電話や家庭訪問の際に伝えるようにしていると、保護者によっては「そんなこと言われたのははじめて」と喜んでくれ、信頼関係が深まっていきました。
今の教師が多忙で苦しんでいるのはよくわかります。しかし、こうした地道な積み重ねが何より大切だということは昔から少しも変わりません。
注意してほしいのは、保護者の話をよく聞くことと、要求をなんでもかなえるのとは、まったく別の問題だということです。
トラブル時にこそ、教師の専門職としてのリーダーシップを発揮してほしい。教師がリーダーシップを放棄していれば、一時しのぎはできても、本質的な解決は遠ざかります。
自分の子どもを主役にしてほしいという親の要望が多かったために、16人の桃太郎が登場する劇を上演した幼稚園があります。こうしたときほど、イヌなどの役の大切な役割を理解してもらえる教育的なチャンスなのです。
無理な要求を突きつけられたときにこそ、その話を受けとめて聞いてあげた後に、どうして叶えることができないのかを説明して、納得してもらうことが大切です。
それは、教育というものが、どういうものであるかを理解してもらうためのチャンスです。こうしたときに教師に何よりも求められるのは「毅然とした対応」です。
毅然というのは、教師がプライドと自信を持って、教育とは何かということをはっきりと伝えていく姿勢の強さです。
(尾木直樹:1947年生まれ、教育評論家。高校・中学校教師22年間を経て退職し臨床教育研究所「虹」を設立。早稲田大学客員教授、法政大学教授などを経て、法政大学特任教授)
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