有名な実践家、東井義雄が考え実践していた授業とはどのようなものか
1 授業に既製品はない
授業の創造ということは、テクニックの追求ではない。教師が古い自分を切り捨て、新しい自分を生み出していく、創造的な仕事である。
2 教師が子どものころ受けた授業の形だとか、どこかで見た模範授業だとかが頭を縛ってしまって、それが授業を、個性も生気もないものにしている。
3 教科書に出てくるから教えるという安易さが、授業を空回りさせ、人間を駄目にする授業をはびこらせている。
4 教科書にあることを、にぎやかに話し合わせても、教師の願いもなく、人間そのものを根本からゆさぶるものでなければ、授業にはならない。
5 教師の願い
(1)教科書にあるのは素材である。それが生きたものになるかどうかは、教師に願いがあるかどうかにかかっている。願いがぼやけていては授業にならない。
(2) 願いに、まずわが身を燃え上がらせる。
(3) 願いが技術を生み出す。
(4) 話術をまねしても駄目、板書を写し取ってまねしてもだめ。技術というものは、それを使う教師のやむにやまれぬ願いが具体化されたものだから。その教師の願いを学ばないで形骸だけをまねても駄目になるのは当然である。
6 教師の力
教師の願いや心だけでも駄目。教師の技術だけでも駄目。この二つが一つにとけて教師の力になる。
7 教師と子どもの信頼関係
三センチの道幅だけあっても、自転車は走れない。授業とは直接関係ないように見える「教師と子どもの信頼関係」これなくして授業は成り立たない。
8 遺産相続
ひらがな一字だって、私たちの先祖が何代も何代もかかって生み出した遺産。心をこめて遺産相続させてやりましょう。
9 授業は何でもない当り前のことを、心をこめて工夫し、大切にしていかなければならない。
10 授業で子どもをどう変えていくか
(1) 子どもという「人間」と少しも関わりのないような授業を授業だと考えていないか。
(2)今日、私たちが授業で追求し研究しなければならないことは「授業で子どもをどう変えていくか」ということである。
(3) 授業に熱心というだけでは、子どもに本当の力をつけてやることはできない。熱心であればある程、うっかりしていると詰め込みになりやすいものを私たちは持っている。
11 授業の中で、ひとりひとりの生まれがいと、日本人の幸せを切り開いていくような愛と創造のエネルギーをどう育てていくかが、授業研究の関心にならなければならぬ。
12 「勉強の主人公を育てる授業」「育ちあい、磨きあえる授業」をめざそう。
13 いくらうまい授業をやったところで、うまい発表会をやったところで、りっぱに見える運動会をやったところで、それが「ひとり」「ひとり」の子どもの確立につながらないのでは「教育」とは言えない。
14 磨きあいとは、AとBとCが寄れば、Aの中にも、Bの中にも、Cの中にもなかったすばらしいものが生まれてくること。
15 私たちは、子どもたちの勉強意欲の底に、いつも村や町や国や人類に対する愛を念じるべきである。それがないと意欲が本当の意欲になりにくい。
16 生活の論理と教科の論理のかみあわせで
(1) 子ども、一人ひとりは、その子どもの感じ方、思い方、行ない方を持っている。その底には、その子どもをして、そう感じ、そう思い、そう行なわせるような論理的なものがはたらいている。
(2) その論理的な必然をさらに、堀り進んでいくと、父母の感じ方、思い方、教師の感じ方、思い方にも続いていく。
(3) それから、家風だとか、家の財産だとか、地域の人たちの生活様式だとか、風習だとか、伝統だとか、文化だとかも重要な関連を持っている。
これらのものに支えられながら展開している子どもの感じ方、思い方、行ない方の筋道を「生活の論理」とよびたい。
(4) 子どもに教えようとすることがらは、客観化された「論理性」「法則性」を持っている。
そして、それは、そのことがらの中だけでなく、他の教えたいことがらの「論理性」「法則性」ともつながっている。算数には算数の、国語には国語の、学問の筋道がある。それが「教科の論理」である。
(5) 授業は「生活の論理」と「教科の論理」の効果的な、かみあわせがないとだめである。
17 子どもはつまずきの天才
(1) 子どもはつまずきの天才である。
(2) 「3+3は5だ」と、つまずく子は、その子なりの理屈、論理が必ずある。
(3) 「子どもの論理」を知らないでは、私たちの仕事は実を結ばない。
(4) 「3+3は6だ」ということを、感動をもって分からせる授業をしようと思ったら「3+3は5だ」と、つまずく子を大切にすることだ。
(5) 授業は「つまずいてる子」の目玉が光ってくるようなものでないと、「つまずいていない子」にとってもたいくつなものだ。
(東井義雄:1912~1991年 兵庫県生まれ 小中学校長、ペスタロッチ賞を受賞、地域の生活を取り上げる生活綴り方教育の代表的な実践家)
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