子どもにトラブルがあったとき、教師が保護者に謝罪のことばを軽々しく口にしてはいけないのでしょうか
新任の教師に「あなたの困っていることは?」と問うアンケートの結果を見ても、圧倒的に「保護者対応」が一位を占める状況にあります。
保護者が訴訟を口にするような世の中です。今や教育の現場で「訴訟のための保険加入」を勧める動きがあり、結構な数で個人加入者が増えていると聞きます。
教師が「自分の身は自分で守らなければ、誰も守ってくれない社会になっていることを自覚せねばならない時が到来している」のだと思うと、悲しい気持ちになります。
教師の研修会で法律の専門家は、何か事件があったとき
「教師は、保護者にすぐに『すみません』という言葉を言ってはいけません」
「それが法廷では、法的な謝罪を意味することになります」
「非常に危険だということを教師は分かっていない」
と、講演した。
ほんとうに、そうなのでしょうか。
その研修会を受講した教師たちは
「もし、法律の専門家の言うようにやっていたら、学校と保護者の関係がもっと大変なことになるのではないか」
「学校現場では通用しないのではないか」
と話していた。
私たち教師は、法律の専門家が言われるように、保護者に謝罪してはいけないのでしょうか。
私は保護者に謝罪してはいけないとは思いません。むしろ、子どもに最初に発する言葉として
「○○ちゃんにも辛い思いをさせて、お母さんにも心配かけたねえ。ごめんね」
と謝罪するのが適切ではないかと思うのです。
教師が、そうした場面に直面して、子どもや保護者の気持ちに寄り添うことばかけをするからこそ、まるく収まるものがあります。
例えば、もめごとで、△△ちゃんが○○ちゃんにケガをさせたとき、法律の専門家が言うように
「○○ちゃんと、△△ちゃんの、もめごとで、○○ちゃんがケガをしたのですね」
「因果関係が立証されていないので、正確に時系列で調べてから、お返事します」
と言うと、保護者の怒りは倍増すること間違いなしです。
初期対応で、ケガをした子どもとその保護者に癒しのことばをかけないと、問題が大きくなります。
ケガをした子どもとその保護者へ癒しのことばをかけないから、問題が大きくなり、初期対応に失敗したと言われます。
私たち教師は法律の専門家ではありません。
したがって、道義的な謝罪のことばも法的には「謝りを認めたこと」になるのかもしれません。
しかし、学校では日常、子どもや保護者の心に添うようなことばがけが大切だということは、学校では当たり前のことだと思います。
謝罪のことばがあるからこそ、対応が進むのではないでしょうか。
管理職が教師が謝罪したことばの真意を伝え、法的にも守れるような働きかけをしてくださるのが、法律の専門家と言われる人たちの立場ではないでしょうか。
(西林幸三郎:大阪市公立小学校教師、大阪市教育委員会教育相談室長、校長を経て、大阪芸術大学初等芸術教育学科教授。児童虐待防止協会執行理事、大津市いじめ事件に関する第三者調査委員会委員、「NPO法人こころの子育てインターねっと関西」運営委員、臨床心理士)
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