保護者の理不尽なクレームで、指導力のない教師とみなされた
理不尽なクレームの標的となった教師は実に非力です。自校の管理職に信じてもらえなければ、孤立感・無力感はいっそう高まります。
保護者の中には「他人から批判されることに慣れておらず、自分の子どもが批判されると、あたかも自分が傷つけられたかのように思って逆ギレしてしまう」保護者がいます。
つぎのような、心の問題を伴った理不尽なクレームの事例があります。
教員採用試験に合格したJ教師は、初めて担任を持つことになった。
毎日、教材研究に熱心に取り組み、学習指導も学級経営も無難にこなしていたので、子どもたちからの評判もよく、連絡帳に保護者から感謝の言葉が並びました。
しかし、五月に起こった事件をきっかけに、すべての歯車が噛み合わなくなり始めました。
当初から身勝手な言動が気になっていたK男が、休み時間に同じクラスの女の子に突然、暴力を振るったのです。
J教師はすぐに制止し、K男を叱りつけました。すると、K男は教室を飛び出し、一目散に走って自宅に帰ってしまった。J教師は教頭に報告すると、K男のあとを追い家に到着しました。
玄関で母親に事件の報告をすると、途中で話をさえぎり
「小学二年の子どもを怒鳴りつけ、恐怖心を与えたうえ、追いかけ回すなんて教師のすることですか!」「担任が替わるまで、学校にいかせません」
と、一方的にドアを閉めた。
J教師は学校に戻り教頭に報告すると、教頭は苦り切った表情になり、J教師を校長室に招き入れた。校長は「もう一度、教頭と家庭訪問して謝罪しなさい」と告げました。
二人で家庭訪問し「お話ししたいことがあります」と申し出ると、母親は「話なんてありません。これから、教育委員会と市の人権相談の窓口にいきます」と、ドア越しに答えました。
教育委員会の指導主事の説得や校長の謝罪もあって、学校を休ませることはありませんでしたが、J教師は「指導力のない教師」ということで、管理職から指導を受けることになりました。
母親が教育委員会に訴えたのは、J教師の叱責の仕方でしたが、すぐに指導力への苦情に変わっていきました。クレーム内容の入れ替わりはよくあることです。
母親は、同じクラスの母親を誘い「授業点検」と称して頻繁に授業を参観するようになりました。参観した日の夜には母親の家に電話をかけさせ、指導批判を1時間もくり返しました。
母親の次の手は、担任変更の要求でした。授業点検で仲良くなった5人の母親とともに、校長に申し入れ、教育委員会に要望書を提出しました。
J教師の落ち込みは一段と激しくなりました。幸い、教職員の誰もが励ましの声をかけてくれましたが、母親のエスカレートする要求に管理職の態度は厳しく、授業観察と批評は続けられました。
それでも、何とか7月を迎えることができました。J教師が一生懸命に努力する姿に、多くの保護者が理解を示すようになってきました。子どもたちの評判も上々でした。
K男の母親と行動をともにしていた母親も徐々に離れていきました。
それが、K男の母親に第3弾の攻撃を決意させました。今度は子どもの人権侵害問題です。
基本的な生活習慣のしつけに対して「強圧的で、子どもの心を傷つけている」と、人権擁護委員会に訴えたのです。この件は、その後、K男の母親の「心の問題」が表面化しました。
J教師は再び元気に教育活動に取り組むようになりました。しかし、一歩間違えば、J教師の教師としての人生を台無しにするところでした。
(嶋﨑政男:1951年生まれ、東京都立中学校教師・教育研究所指導主事・中学校長等を経て神田外語大学客員教授)
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