子どもが変わる接し方とは、どのようにほめ、叱ればよいのでしょうか
私は30年以上にわたり、小学校教師として子どもたちと向き合ってきました。授業でもそれ以外の場面でも「子どもが動きたくなるように変身させる」ことこそ、教師の仕事ではないかと思っています。
授業づくりとは、教材をもとに、いかに子どもを動かすかということです。学級づくりで「子どもが言うことを聞いてくれない」と悩むのは、子どもの心を知らないことが原因かもしれません。
子どもが「やりたい」という気持ちになって、動きたくなるように仕掛けて、待って、待って、子どもが動き出したらほんの少しだけ背中を押す。これが子どもを動かすときに私が気をつけているやり方です。
子どもをほめてクラスを動かすには、三段階のほめ方が必要です。三段階できちんとほめれば、子どもたちは目に見えて変わります。
まず、クラスの誰か一人を一回ほめると、周りの子は「今度は私がほめられたい」と思って動きます。
ところが、ほとんどの教師は二回ほめません。一度ほめられた子も、二回ほめられないと元に戻ってしまいます。「ほめられないなら、意味ないや」と思うのです。
そこで、私が実践しているのが「子どもは三段階でほめる」ということです。
最初、誰か一人の子どもをほめます。二段階目は「さっき、〇〇ちゃんをほめたら、あなたもできるようになったね。すごいね」とほめる。
そうしたら三段目「全員変わったね。みんなができるようになった。すごいね」
小さなことですが、こういうことをちょっと意識するかしないかでクラス全体に大きな差が出てくるのです。
そして、もう一つ「ほめるための仕組み」をつくることも重要です。子どもをほめる材料が集まるように、教師から仕掛けていくのです。
例えば、私のクラスには給食当番が四人しかいません。当然、四人ではたりません。だから、当番の子は必死になります。「私、牛乳配ってあげるね」と言って手伝う子が必ず出てきます。
それで給食の準備が整ったときに「給食当番の四人はすごく頑張ったよ。でも、〇〇ちゃんが『牛乳配ってあげるね』と言ってせっせと動いたんだよ」と全員の前でほめる。
すると、翌日には、多くの子がせっせと手伝うようになっているわけです。
三段階でほめることと、ほめるための仕組みをつくること。この二つを意識しておくだけで、子どもたちの動きに変化が起こります。
子どもを叱る場面ではどうするか。重要なのは、叱るラインを一定に保っておくことです。
一番こまるのは、怒りの境界線があいまいなこと、その場の思いつきで叱ることではないでしょうか。
私は、新年度の始めに「叱る基準をあえて子どもに見せる」ということを意識的にやっています。
「友だちを傷つける、裏切る、うそをつく」ことを見つけて叱り、私なりの基準を見せておくのです。
さらに重要なことは、その基準は一本の細い境界線ではなく「ここまで、はみ出ることは想定内という幅をもったラインにしておく」ことです。子どもたちが少しはみ出ることは、あらかじめ想定しておくわけです。
これは、自動車のハンドルの遊びと同じことです。遊びがなければ、いちいちデリケートに反応してしまって、とても運転しにくい。
子どもを叱るときも同じで、心のゆとりをもっておくことが欠かせません。
一定の基準をもって叱ることと、幅をもったラインで見守ること。これは矛盾すると感じるかもしれませんが、この微妙なバランスをとることが実はとしても大切なことです。
このバランス感覚が、子どもたちとの信頼を築くカギであり、結果的には子どもたちを叱らずに済むことにもつながります。
私が生活指導主任をやっていたころは、どんなに子どもたちがにぎやかでも、私がマイクをもってスッと前に立つと、ピタッと静かになりました。ほかの教師に「魔法だ」と言われていたほどです。
子どもたちは、私を怒らせると怖いということをよく知っています。さらに、私が何をしたら怒るか、その基準がわかっているからこそ、静かになります。
ふだんから、叱る基準を明確にしておけば、子どもを叱る回数もグッと減らすことができるのです。
(田中博史:1958年山口県生まれ、山口県公立小学校教師を経て筑波大学附属小学校教師。基幹学力研究会代表、全国算数授業研究会理事)
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