相性があわない子、教師を困らせてやろうする子には、どう対応すればよいか
子どもも教師も人間ですから、相性があわないこともあるし、教師を困らせてやろうと思う子もいます。
新年度の始業式から、お互いに、どんな先生か、どんな子どもかを探っていって、次第に折り合いをつけていくのです。
不幸にして、教師が子どものいじめにあい、学級崩壊になったり、休職に追い込まれたりする場合もあります。教師も生きにくい時代になっているのだと思って、心が痛みます。
ですが、最終的なところにいく前に、必ずサインは出ているはずです。小さなことでも見逃さず、叱るのではなく、よく話を聞くようにしていかなければならないと思うのです。
何といっても教師は大人なのですから、余裕をもって大人の知恵を発揮してもらいたいものです。
始業式で紹介されたら、新採用の若い教師なら、にこにこと笑顔で、簡単に自分の特技や好きなことなどを交えて挨拶するとよいと思います。子どもの心をぐっとつかめたら、しめたものです。
子どもも、たいていの子は、出会いの一瞬だけは、新しい自分になろうと、期待に胸をふくらませていますから、教師の自己紹介のときがチャンスです。
しっかり目を向けて、その子を受け止めていくという姿勢を見せていくようにします。
子どもは教師を見ています。そして、試してきます。ある時の六年生の男の子は
「先生、かったるいから掃除やりたくねぇ。休んでていい」と、ふてくされて言ってきました。教師がどういう対応をとるか試しているのです。そこで、
「やりたくないんなら、やらなくていいよ。遊んで来なさい。あなたが掃除をしなくたって、先生はちっとも困らないんだよ」
「でも、なぜ掃除をしないのか、みんなが不思議に思うよ。全校集会で、なぜ掃除をしないのか、一年生から六年生まで、みんなに説明しなさい」
と、冷ややかに言いました。すると
「あ、そういうことですか。じゃあ、掃除やります」と言って、やりだした。この先生には通じないと思ったようです。
掃除をしなかったらどうなるか、その子なりに考えたのでしょう。子どもに自分で考えるように仕向けたほうが、よっぽど効果があります。
頭ごなしに叱られたほうが、子どもは楽です。教師を恨むか、拒否する口実ができ、掃除をしない正当性を持つからです。堂々と掃除をしなくなります。
そして、叱ることを繰り返して、お互いのメンツがたたなくなるほどになってきて、クラスが荒れてきます。
そのときは、掃除をするかどうかではなく、叱られることの理不尽さを問題にしてくるからです。
掃除をやりたくないと言っていた子が少しでもやっていたのを見たら「えらいね。あなたが掃除すると、きれいになって気持ちがいいね」と言ってあげました。
本当にそう思ったからです。すると、その子は、ちょっとうれしそうな顔をしていました。
言うことを聞かない子に「どうして、言うことを聞かないの」と聞いても答えるはずがありません。私はそういうとき、部屋を変えて個人的に話すようにしています。
あるときの六年生の男の子は、目つきと態度で冷ややかに反抗していたので
「あなたは先生を嫌っているかもしれないけど、私はあなたを嫌っていないよ」
「先生は教師だから、いけないことは怒るけど、わけもないのに怒ることはしないつもりだからね」
「いつ、あなたが先生を嫌いになったのか、話してくれると、先生も直しやすいんだけど」と言うと、たくさんの不満をぶちまけてきました。
誤解している点は正し、私が直さなくてはいけないことは直すと約束し、その子も直すことは直すと約束して、話し合いは終わりました。
その後も何回か話す機会がありました。目に見えて逆らうことはなくなりましたが、一年間、お互いに笑い合うというところまではいきませんでした。
それでも、話し合ってよかったと思います。その子の思いも、私の思いもお互いにわかったからです。
お互いの事情がわかったという経験だけでも、その子には大きいと思います。
子どもは天使でも、悪魔でもありません。嫌なことはやりたがらない、自分が不幸だったら、人も不幸にするという、普通の人間です。
教師は子どもの善なるものを導き出し、悪い心を浄化してあげなければなりません。
教師は自分の感情に押し流されて、怒ったり叱ったりしてはならないのです。
私は人間ができていないので、わかっていてもなかなか冷静になれませんが、慈愛の心をもって子どもたちに日々接していきたいと願っています。
私は、少しでも自分が変わらなければ、子どもたちが変わることはないと思っています。
(卯月啓子:1949年東京都生まれ、元公立小学校教師。NHK教育テレビ「わくわく授業 卯月啓子さんの国語」(2002年)で好評を得る。「卯月啓子の楽しい国語の会」代表。現職教員のための国語教育研究会の常任講師を務め、後進の指導にあたっている)
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