私は約900学級の授業を見て、今の教師に足りないものに気づいた
ある年、私は約900学級の授業を見た。見ていて、いらいらすることが多かった。なせだろうとかと考えた。
足りないものが「教材・モラル・笑顔」にあることに気づいた。
1 教材が決定的に弱い
教材が決定的に弱い。つまり知性があっても弱い。
よい授業は、今も昔も教材がよい。子どもが熱中するものを提示している。
多くの教師は、教科書を教えながら、その教科書の内容をきっちりつかんでいない。「これだけは何としても教えたい」というものを鮮明に持って授業に臨んでいる教師は多くない。
私は教科書を最低20回くらい読む。教科書の内容が鮮明になるまで何回も読むことである。すると、そこで教えなければならない内容が鮮明になる。
単元ごとに読むと、中心になることや、最も面白いことが見えてくる。こうなると、教科書の順序にとらわれず授業は「最も面白いところから切り込む」ということだ。
そうすれば、今までと違った授業展開になる。次は子どもたちが「何が食べたいか」ということを教えてくれる。子どもたちが教えてくれた内容へ進めば、子どもの意欲も下がることはない。
きっちり教材研究した教材を提示し、的確な発問・指示を行えば、どんな子どもでも変容する。
教師は教材を調べる時間がないという。私は現場の忙しさはよく知っている。「時間はあるものではない。自分で工夫してつくるものである」というのが私の主張である。
教師の技として「時間の管理のしかた」があると思う。私の家の机の周りには、すぐ使う資料や本を置き、捜すために、いちいち動かなくてよいように配置を工夫した。
この仕事の次はこれと順序を見えるように工夫している。そうしないと時間が足りなくなる。
また、今できることをあとでやろうなどと先送りしないことだ。今やること、これにつきる。
2 モラルがない
「何しろ、挨拶一つできない、教師としての最低限のモラルさえ身につけていない教師が多い」と多くの校長がなげく。挨拶一つできないというのだから、こちらも驚いてしまう。
ある若い教師が、突然連絡もなしに学校を訪ねてきた。「授業を見せてくれ」という。1時間だけと言っていたのに4時間参観して、無遠慮に子どものノートをひっくり返して見たりした。
帰りぎわ、「自分でもこの程度の授業ならできるという自信を持ちました」と言った。
授業を見ても「見る人の実力ほど」にしか授業は見えないのである。ある人には見えて、ある人には見えない。見ることも技しだいである。このことに気づいてない人が多い。
お礼もいわずに帰っていった。もちろん礼状もなかった。「技を磨く」ことも「マナー」も身につきそうにない教師だ。
このような教師に、いやというほど出会った。常識を疑うような人に時々出会う。教師の人間教育をやり直さなければならないのかと思う。
授業の名人といわれる人たちは、みんな笑顔が素敵である。声の出した方も心得ていて、てきぱきと、大きな声で話すのは、聞いていて気持ちがいい。そして、大きな声で笑う。
名人はどことなく「品」がある。「品」というのは人間性である。教師に大切なのは、この「品」のよさである。
「お前ら、そこで何をしとるんじゃ」と言った女教師など品のかけらもない。教師の言葉づかいの悪さが問題になる。
教師と子ども、保護者と信頼関係を築くにはどうすればよいか。
教師の指導技術が低いと子どもが教師をバカにする。教科書に書いてあることをそのまま板書する。それを説明している。こんな教師に、子どもたちは技を感じるわけがない。尊敬し信頼するわけがない。
今の若い教師は、子どもにやたらと甘い。いくら行儀が悪くても、他人のじゃまをしても厳しく叱れない。信頼関係をとりもどすには「やさしさと厳しさの使いわけ」をすることだ。
ふだんは、やさしさが必要だし、子どもをかわいがらなければならない。しかし、時には、厳しく叱り、正さなければならない。
そして、最も大切なことは、教師が身をもって態度で示さなければならない。言うこととすることが違っていては、子どもは教師を信頼しない。
子どもが育ってくると、保護者が教師を信頼するようになる。これが一番はやい信頼関係のつくり方である。子どもが心から教師を信頼するようになったとき、保護者も教師を信頼するようになるのである。
3 笑顔
話をしても、授業をしてもニコリともしない教師がいる。まるで能面のようである。
「ニコニコしていたら、子どもにバカにされる」と、ある中学校の教師が言った。それで私は
「ニコニコしなくても、すでにバカにされていますよ。今日見た授業でもそう見えましたよ」
と言ったら、ムッとした顔をしていた。
「授業は楽しいものだよ」ということを教師の表情でも示さなくてはいけない。笑顔は教師の義務だと私は考えている。
「一度も笑いのない授業をした教師は、授業終了後、直ちに逮捕する」という冗談を私は20年も前から言っている。
私が若い教師のとき、子どもから「先生はネクラだから、もっと明るくならないと子どもから嫌われるよ」と言われ、びっくりした。
このことがあって以来、笑顔の練習をし、面白い話をするように心がけてきた。
顔の表情は練習次第で変わる。私がやっている方法は、机の上に常に10センチ四方の鏡を置いて、時々表情を見ることである。
毎日、何度となく自分の表情を見ていると「自分の表情のクセ」がわかる。
特に電話をかけるとき、どんな顔で話しているかわかる。笑顔のないときは、言葉もきつくなっている。
これではいけないと反省し、急に笑顔をつくってみると、何と言葉が変わってくる。反省の材料になる。わずか100円の鏡で、ものすごい勉強ができる。
これは「技」というよりは「人間性」といった方がよいだろう。ネクラからネアカに人間を変えるのである。これも教師の義務であると考えている。
私は、子どもたちや保護者の前に立つと自然に笑顔ができるようになったと思っている。しかし、飛行機の客室乗務員にはかなわない。客と話したりするとき、必ずこぼれるような笑顔になる。
教師はサービス業である、笑顔を身につけたいものだ。せめて子どもの前だけでも笑顔を絶やさないようにしたいものである。
わたしが見た授業の名人や有能な教師はみんな笑顔がすてきである。
笑顔のある教師の授業は、やわらかく、暖かく、子どもたちものびのびと学習している。
(有田和正:1935-2014年、福岡教育大学附属小倉小学校、筑波大学付属小学校,愛知教育大学教授、東北福祉大学教授、同特任教授を歴任した。教材づくりを中心とした授業づくりを研究し、数百の教材を開発、授業の名人といわれた)
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