新担任のとき親からほめられ、とてもありがたかった、だからこそ保護者の話を聞き、ほめ、励ますのも教師の仕事なのだ
おかげさまで、個人面談のために、個人カルテを作り、話す内容も準備も、話し方も、まあまあうまくなり、そつなく個人面談ができるようになった。
経験というのはありがたいもので、苦労なく親とも話せるようにもなった。
私に、まだ子どももいない20歳代の頃は、母親はどんな人であっても、恐怖だったけれど、それもなくなった。
だから、若い先生も、きっと経験年数とともに、親とのつき合い方は、上手になると思う。心配はいらない。
私が保護者との面談は、一番長いときは2時間を超えた。そのときは、問題がたてこんでいて、早々に切り上げるわけにもいかなかった。
保護者が不安定であったり、いらいらした気持ちでいると、子どもに伝染してくるから、不思議なものである。
このような場合は、ほとんどの母親は
「先生、実は、いろいろ夫婦の問題がありまして・・・・・」と、なっていく。
2時間の面談になった母親も
「なにもかも、私が家を支えていて、大変つらいのです。頼りない夫に怒りさえ感じてしまうのです」
といった感情を、相手かまわず、担任の私に話すのだから、もはや母親の気持ちも非常に不安定なのだ。
そんなときは、仕方ないから「そ」のつく言葉をたくさん言って、気のすむまで話をしてもらうしかない。
母親の気持ちが少しでも気楽になれば、自分の大事な教え子を救えるってものだ。
「そうですね」
「そうかもしれません」
「そうだといいですね」
「そうするのがいいですよね」
「そうすると、どうなりますかね」
「そういったときは、誰にでもありますから」
「そんなに深刻に考えなくていいですよ」
「そんな気がするだけですよ」
「それでも、うまくいかないかたが多いですよ」
「そんなときは、眠った方がいいですよ」
子どものことではなく、母親の相談をしているような気もするが、仕方がない。最後は必ず、
「区の教育相談にかかると、お母さんの気持ちをよく聞いてもらえますよ」
「そうすれば、子どもにもイライラする気持ちが減りますよ。ご案内しますよ」
と伝える。
人に自分の悩みを伝えるだけの相手であっても、そのような人がどこにいるのか、知らない親も多い。
苦労した保護者もいたが、毎年、年賀状をやりとりして20年になる保護者もいる。私が初めて担任をしたとき、クラスの役員を引き受けてくれた母親だ。
若かった私を頼りないなどと一言もいわず、
「先生が休み時間に、一緒に遊んでくれるので、楽しいよと娘が毎日のように言いますよ。だから、先生、このまま頑張ってくださいね」
と、大げさにほめて励ましてくれました。
どれほどありがたかったことか。だからこそ、保護者をほめ、励ますことだって、私たち教師の仕事の一つなのだ。
(大場寿子:1961年静岡県生まれ、東京都公立小学校校長)
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