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「押しつけや、いや味」のない説教をするには、どうすればよいのでしょうか

 私は小さい頃から、ずっとお説教というのが嫌いでした。
 お説教されると、すぐ逃げ出したい気分になります。私は、お説教の中に「押しつけ、見せしめ、いや味」などの臭いを感じてしまうのです。
 ところが、そんな私がお説教する場面に立たされたのです。
 学年の廊下に貼りだしていた100枚ほどの「遠足のスナップ写真」の見本のうち5枚が消えてしまったのです。
 その日、朝の職員の打ち合わせで、昼休みに中学2年生全員を体育館に集めて話をしようということになったのです。
 ベテランと呼ばれても不思議でない年齢になってしまった私がお説教する役に選ばれたのです。子どもたちにつぎのように考えて話しました。
1 お説教の目標
 目標は、話が終わった時に、多くの子どもたちが「なーるほど、そういうことで、集会になったのか。それなら、しょうがないか」と思ってもらえることです。
(1)
見せしめの集会にはしない
 教師は、説教を「見せしめ効果」に使ってしまいがちです。学活や道徳の時間、授業の時などにやりがちなことです。
 だけど、この「見せしめ効果」には、充分気をつけてください。
 やられる側にしてみると「悪いことして、ゴメンネ」という気持ちになることもあるけれど、多くの場合は
「教師たちめ『みせしめ』なんて汚い手を使いやがって、俺たちを『悪者』に決めつけ、みんなの前で恥をかかせて、頭にくる。チクショウめ」
などという反感を持たせてしまうものなのです。
 その結果、集会の後に、より悪質ないたずらが勃発するということがしばしばあるのです。
(2)
必ず「問題を起こした子ども側」の気持ちにも触れる
 この事件に限らず、問題を起こした子どものことを、頭ごなしに「悪者」扱いにしてのお説教は、ただ反発を買うだけですから注意してください。
 必ずといっていいくらい本人には「もっともな言い分」があるものなのです。
 だから、どんな問題の時も、必ず「やっちゃった側」の気持ちは一度はちゃんと聞いてやるべきなのです。
 聞くのは一番始めの時が絶対にいいのです。「言い分」を充分に聞いてあげましょう。
 そして、その次に「事実の確認」と「その善悪についての判断」をさせてあげたいのです。この順番は、絶対に間違えないようにしましょう。
 子どもたちが「この先生、俺たちの気持ちを分かろうとしてくれている」と思ってくれたりしたら、教師の話も心を開いて聞いてくれるかもしれないからです。
 私は、集会で話す時間を5分以内と決めました。
2 出だしの話
 私は本題に入る前に、こんな感じでスタートしました。
「みんなにとっては、遊べる貴重な休み時間だというのに、すごいガッカリだよね。僕も同じ気持ちです」
3 なぜ集まってもらったかの説明
「みんなに話さなければいけないことが起きたので、ここに集まってもらいました。少しだけつきあってください」
「実は、廊下に貼りだしておいた遠足のスナップ写真の何枚かが失くなってしまったんです。それで困っているんです」
「もしかして、この学年の人のいたずらでないかもしれません。もし、そうだったらゴメンなさいね」
「でも、学年の廊下での紛失事件なので、とりあえずみなさんに集まってもらいました」
4 問題を起こした子どもの気持ちに触れる
「ところで、写真をとった人って、きっとほんのイタズラ心でやったんだと思うんです」
「あるいは、写真を見ているうちに、この子、かわいいな。この写真ほしいなーと、つい手が伸びちゃったとかね」
「とにかく、すごい悪いことをしたわけじゃない。ちょっとした出来心でやっちゃったことだと思うんです」
5 結果として、どんなマズイことになったか話す
「ところで、写真をとった人は、ほんの出来心でやっちゃったことなんでしょうが、それは結果として、次のことでまずかったんですよねー」
「まず、まだあの見本の写真を見ていない人に迷惑をかけているんですよ。消えてしまった写真からは選べない。だから、困っているんです」
「それから、写真屋さんにも迷惑をかけていることにもなる。あの写真は写真屋さんの私物なんです。いたずらでも、これは『盗難事件』です。これはまずいんですよ」
まずい点については、短くさわやかにハッキリと教えてあげたいですね。
6 これからどうあってほしいのかを伝える
「僕の願いとしては『できたら失くなった写真が戻ってくるといいなー』ということです。写真を戻してくれる人が現れたら、僕はすごくうれしいですよ」
「ただ、戻そうと思っても『戻しづらいなー』ということもあるものです。そんな時は、ほんと、どこにでもいいですから、そっと返しておいてくださいよ」
7 私の気持ちを子どもたちに伝える
「僕は、こういう会ってあまりやりたくないですねー。だつて,僕が一番さみしいなーと思うのは、教師が子どもたちを疑ったり、互いに不信感を持ったりすることです」
「また、子どもたち同士がお互いに不信感を持ち合うこともさみしいことですね。なんとか避けたいですね」
「できたら、お互い笑顔のたのしい関係がいい。だから、今度は、たのしいことで集まりたいですね」
「貴重な時間をつぶしてしまいました。ごめんなさいね。でも、まー、僕なりに『お互いがイヤーな気持ちにならないように』と一生懸命に話したつもりです」
「そんな僕の気持ち、分かってもらえたらうれしいです。僕の話、これでおしまいです」
 ところで、この数日後、なんとあの失くなった5枚の写真が戻ってきたのです。
「俺たち、とっちゃった」と代表のYくんが返してくれたのでした。
(
小原茂巳:東京都公立中学校教師を経て明星大学教授
)

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