保護者の中には「話してもわからない人もいる」のだ、と心得ておくことも、教師のメンタルヘルスを守るうえで必要です
ある中学校の女性担任の学級には、不登校の生徒が複数いました。
学級の中に、グループのリーダー的な存在の女子生徒がいました。
少々暴走して周囲の生徒に服従をしいたり、いじわるをしたりするので、グループから敬遠され気味になっていた。
保護者会にその女子生徒の保護者が出席し
「不登校の生徒がいるから、クラスの雰囲気が悪いのではないか」
「先生のせいで、不登校の子が学校に来られないんでしょ」
と、一方的に担任を責め始めた。
その保護者は、わが子の暴走が行き過ぎて、友だちに敬遠され始めたので、担任に「グループの仲間との仲をとりもってほしい」というお願いではなく「わが子は悪くなくて先生が悪い」という主張であった。
担任は「話せばわかるはず」と、誠実に対応していた。しかし、担任はうまく事を収拾できないので、自分自身を責めた。
保護者の執拗ないいがかりに、担任があわやつぶれそうになる寸前で、他の保護者が見かねて
「先生は、がんばっておられると思います」
と、保護者全体の前で担任をフォローしてくれたので、糾弾会の色合いが失せ、担任Aはなんとか勤務を続けることができた。
ぶの悪くなった保護者は、その後、他の保護者のいる保護者会には出ず、矛先を管理職に変えて訴えをくり返し、わが子を正当化しようとした。
こういうタイプの保護者は、わが子から直接、話を聞いて痛みをわが子と共にし、一緒に今後を考えようとしない。
「子どものために、学校を訴える」やり方にすり替えることで、わが子のために、親ががんばっている姿をわが子に見せることで満足を得ているようです。
また、学校が悪いことにして、自分の弱さを見ることができないようです。未熟なパーソナリティを抱かえた親という見方もできます。
熱心な担任は、誠実さを逆手にとられた形となりました。誠実だったからこそ、他の保護者が助け船を出してくれたケースですが、管理職や同僚教師に早めに相談しないと、紙一重でダウンしていたと思われます。
教師は、保護者の「問題のすりかえ」に気づき、子ども本人と話をできるルートを見つけたいものです。
このような保護者は、自分が不安なあまり、執拗に教師を責めてきますから、教師側に余裕のないときは、管理職や同僚教師と共に問題にあたり、担任が抱かえ込みすぎないようにすることが大切です。
この世の中には「話してもわからない人もいる」のだ、と心得ておくことも、教師のメンタルヘルスを守るうえで必要です。
(井上麻紀: 臨床心理士。公立学校共済組合近畿中央病院メンタルヘルスケア・センター主任心理療法士。学校教職員の専門病院で、教員に特化したメンタルヘルスケアや職場復帰支援している)
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