教師はクレームの前さばきがヘタだ、保護者の怒りのエネルギーはどこから来ているのかが分かれば「関わり方、解決の糸口」が見つかり始める
保護者と教師は敵ではありません。子どもの成長に関わる当事者として、子どものために手をつなぎあえる存在です。
しかし今、保護者と教師の関係性が難しくなっています。
少数ではありますが、解決することが難しいケースも確かにあります。
学校内外で起きたトラブルを弁護士に相談して対処するために「学校法律相談制度」(スクール・ローヤー)が、2007年6月に東京・港区で発足しました。
私のところにコメントしてほしいと言ってきたので、私が述べたことは
(1)それだけ事態が深刻化していること
(2)これによって教師の心理的な負担が軽減され安心感につながる
(3)しかし、学校に持ち込まれる要求の9割以上は、法律家が出る幕がない「ぐち」や「不満」のようなものであり、違法とか不法行為ではない
(4)この制度が本当にいいものになるかは、もう少しの経過観察が必要だ
ということでした。
私が主宰している学校保護者関係研究会の弁護士が
「学校の先生は前さばきがヘタだ」
と形容したことがあります。
前さばきとは相撲用語で「差し手争い」のことですが、それがヘタなためにがっぷりと四つに組まれて、抜き差しならなくなる状態を意味しています。
「それは不当な要求です」と言えば簡単に済むことを、いたずらに放置することによって、法的な恐喝問題にまで発展させていったりする。
他方で、精神的にも追い詰められたり、きちんと向き合えばすぐに解決できそうなことを、逆にこじらせていくことを意味しています。
学校や教師には
(1)向き合うべき課題
(2)聞き流すだけでいい話
(3)適切な距離を保つ必要のある問題
それを見定めるには、まずは保護者の話を聞きながら
「怒りの源」
はどこにあるのかを見て取る姿勢が必要なんだろうと思います。
どんなクレームかということよりも、
「そのエネルギーはどこから来ているのか」が分かれば「関わり方、解決の糸口」が見つかり始めます。
そのことによって「踏み込んでいいもの」と「踏み込んではいけないもの」といった関わり方にも気づくことになるでしょう。
執拗で繰り返しの要望があるとすれば、それは表向きの要求であって、真意や背景事情は別にあるかもしれないということが推測できることもあるでしょう。
ある場合には「積極的に応じる」のではなく「適切な距離を置きながら接する」ことによって、関係当事者双方がそれ以上に事態を深刻化させないことも必要です。
部分的な解決しかのぞめなかったり、解決できず平行線のまま終わることも当然あるわけです。
普通には考えられない行動を繰り返す背景として、何らかの精神疾患などからくる影響だけでは説明がつかない場合、人格障害が考えられます。
玉井邦夫は著書で
「学校現場が人格障害の問題に直面し、困難を極めるのは、保護者に人格障害が認められるケースであろう。モンターペアレントなどと呼ばれることもある」
「常識では考えられないような要求や抗議を持ち込んでくる保護者のなかには、こうした人格障害に該当するケースが考えられる」
「教師に対する激烈な攻撃や、相手の感情などしんしゃくしない挑発、自分の言動に対する極端な無責任さ、他者に対する激しい好き嫌いや、気分の変動、強い被害の訴えなどが示される」
と書かれています。
玉井邦夫は、こういった傾向をもつ保護者と接するばあいは
(1)早急に教育委員会や専門機関(医療・福祉・警察など)の協力を得て、今の起きているトラブルを管理者と学校現場が共に共通理解すること。
(2)学校ができる範囲は明確に管理者から伝えること。
(3)教師の個人的資質の問題ではないことを確認すること。
以上のような大原則を踏まえて、関係機関とのチーム対応を続け、見立てや解決の方向を探ることになる。
「良かれ」と思って親身に関わっても、何度も裏切られ、振り回され続けて、何ともならなくなるような事態に陥ることがあります。
そうならないために「適切な関係性」や「適度な距離の維持」が大切なわけです。
すなわち、会う場所や時間を限定していくことや、一人で対応せずに共同で向き合うなど、すべて分かり合えるという前提には立たないということが大切です。
(小野田正利:1955年生まれ、大阪大学教授。専門は教育制度学、学校経営学。「学校現場に元気と活力を!」をスローガンとして、現場に密着した研究活動を展開。学校現場で深刻な問題を取り上げ、多くの共感を呼んでいる)
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