生徒から暴力を受けたのに保護者から訴えられ裁判になった、どう教師は対応したか
教師になる前に会社員だった私にとって、上司への報告はどんな小さなことでも、短く報告することの大切さは、身にしみていた。
何かあったとき、最終的な責任を負うのは、やはり上司であったからだ。
この「たった一言の短い報告こそが、職場でのコミュニケーションをつくり、一緒に仕事をする中で信頼関係をもたらす」のである。
私は幸いなことに校長や同僚教師との人間関係で悩むことがあまりなかった。
教師になりたくて、やっと教師になったのに、辞めたくなるような事件がおきた。
私が中学3年生の担任をしているとき、2学期の期末テストの前に事件が起きた。
「ペンチを返しなさい」と、ペンチでいたずらをしていた男子生徒2名に注意した。その言葉に2名の生徒は逆切れした。
私の持っていた教科書の入っていたカゴを蹴り飛ばした。そして、いきなり私に掴みかかった。私は手を出したらこちらの非となると考え、手出しは何もしなかった。
その後、直ちに警察に通報し、被害届けを警察署に提出した。すぐに診断書を取り、公務災害の手続きを取った。幸い、校長も学年団も教育長も私を助けてくださった。
事情説明の保護者会では、該当生徒の仲間内の保護者が次々と学校を非難した。しかし、学校側の措置を応援して下さる保護者の声の方が大きかった。
そんなとき、組合活動に熱心な教師は「子どもの気持ちを考えていない措置だ」と被害届を出した私を非難した。組合員の私に、組合は何も手助けしてくれなかった。
該当生徒の保護者は、事件直後、教員委員会を訪れた。学校を非難し、謝罪の言葉や子どもの非を認める言葉は一切なかったそうだ。
教育長は「わしに任せとけ」と私に言って、保護者の訴えを一蹴された。
保護者から事件の依頼を受けた弁護士が来校された。
弁護士は「今回のケースは、生徒側の全面謝罪しかない。しかし、保護者は学校側の責任を追及する考えであり、とてもお受けできないと考えている」と、話しされた。
すると、保護者の態度が豹変した。謝罪なしで判決を迎えることは不利と考え、家庭裁判所での判決の前に何とか、私へ謝罪をしたいと申し入れをしてきた。
私は申し出を断った。弁護士経由で送られてきた手紙は、開封せずに弁護士あてにお返しをした。
結局、鑑別所送致、試験観察処分となった。処分が決まり学校へ復帰すプログラムが組まれた。
まず、最初に私への謝罪である。私は両親、管理職、教育委員会、生活指導の立ち合いを求めた。私は謝罪だけお聞きし、許すとも許さないとも答えなかった。
冬休み中に半日、登校させ、校長を中心に訓話や授業、作業をした。今後、どう生活していくのかと作文や誓約書などを見せてもらった。
保護者との今後の方向性についての話は校長にまかせた。
誓約書には「ちゃんと授業に出ます」保護者も「出させます」と書かれていた。
しかし、やがてポツポツと授業を空けた。授業中にいないときは所在確認をした。欠課時数を正確に記録し、保護者に伝えていただいた。
授業に出席している生徒の小テストなどは記録に残し、授業を受けていれば点数が取れる事実を示し「授業が悪い」と言わせないようにした。
その生徒だけに必要な連絡でも「学級全体」に話をした。私が連絡したことの証拠を残すためだ。
教師が言っても、生徒が「そんなん知らん」、保護者が「子どもは聞いていない」といった学校の対応への苦情が何度もある。
知っていても、自分に都合が悪くなれば「知らなかった」という生徒の言い訳を封じるためだ。
「うちの子にだけ意地悪している」という言いがかりをつけられないためでもあった。
教師からの配布物を欠かしたことはなかった。プリントの隅に私が生徒の名前を書き、隣の子に机の中に入れてもらった。これも確かに渡したという証拠を残すためだ。
仕事なのだから、理不尽なことがあっても、我慢しなければならないときもある。それも給料のうちだ。
しかし、何でも我慢する必要はない。卑下することもないし、自分だけを責める必要もない。
ただひたすら、風をよける方法を考え、実行すればいいのだ。
支えてくれる同僚や仲間や管理職と、現場で培った先輩教師の知恵をお借りすれば、必ず乗り越えることができる。神様は乗り越えられない試練を与えない。道は必ず開かれる。
((向井ひとみ:兵庫県公立中学校教師)
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