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手に負えない生徒に出会っても過度に落ち込まず、弱音を吐くことが、辞めたいと思う危機を乗り越える第一歩となる

 中学校で国語を教えるA教師は、16年目の女性教師です。どの学校でも熱心に取り組み教師という仕事に自信を感じていました。
 しかし、二年生の担任となり、はじめて手に負えない生徒と出会いました。
 他の生徒に暴言を吐いたり、暴力行為をすることもあり、学級全体が落ち着かなくなっていきました。
 何とかクラスのなかに溶け込ませようとして、あらゆる手を講じてみましたが、どれもうまくいかない。
 担任である自分が、一人の生徒を指導できずにいる状態を、悔しく、許せなく思いました。
 同時に、他の生徒にも嫌な思いをさせて、申し訳ないという思いで胸がいっぱいになりました。
 女性であるという、どうしようもできない部分も含めて、すべては自分の責任であると、自分を追いつめていきました。
 教室では、その生徒の言動に自分の感情が振り回され、常に張り詰めた緊張状態に置かれていました。
 職員室で、周りと和気あいあいとやっていくことが好きなA教師でしたが、学級がうまくいっていないことを正直に言えなかったため、同僚の教師との間に自分から垣根を作ってしまいました。
「大変なのは、わかっているはずなのに、誰も助けてくれない」と孤独感と不信感とが募っていきました。
 家でも学校のことが頭から離れなくなり、悶々とした日々を送っていました。
 食事もおいしく感じられず、食欲も落ち、眠りが浅くなったり、朝起きるのが辛くなったり、身体に変調も来すようになりました。
 しかし、放課後の掃除のときに、被害を被っていると思っていたクラスの女子生徒から
「先生、具合、悪くない。みんな心配しているよ」
と声をかけられ、ハッとしました。
 教師とはこうあるべきという自分の思い込みにだけとらわれて、生身の人間としての思いに正直に向き合ってこなかったのではないか、と気づかされました。私は
「もいいい。彼を何とかしようと思うのは、やめた」
「批判的に冷ややかに見ていると思ったクラスの生徒のなかにも、心配してくれている子もいるんだ」
「担任だけが必死で、性急に頑張るのではなくて、生徒たちと一緒に考えながらやっていこう」
「彼を何とかすることができなくても、周りの生徒たちをもっと大切にしよう」
と開き直ることができました。
 A教師は同僚の教師に「自分の手には、負えません」と宣言しました。
 その後は、少しは余裕をもって、当該の生徒と接することができるようになりました。
 余裕をもって接すると、その生徒の悪い面ばかりでなく、良いところが少しずつですが見えるようになってきました。
 その生徒の適切な行動に対して、自然にほめ言葉も出るようになり、ギクシャクした関係も徐々に改善の方向に向かっていきました。
 また、学年の教師の協力を得ながら、学級の立て直しも図ることができました。
 A教師が、この危機を乗り越えることができたポイントは
「自分が努力すれば何とかなる。自分だけで何とかできる」と過信していたところから、
「自分には、できないところもある。他の教師の助けが必要なときもある」
という考えに至ったところにある。
 教師が自分の思いとかけ離れた状況であっても、ありのままの現状をさらけ出すことは、自分自身のためだけでなく、ひいては子どものためでもあるのです。
 自分の限界を知り、難しい問題にはチームで、ときには、周りの子どもの力も借りながらかかわることです。
 問題を一人の教師が抱え込むのではなく、できるだけ多くの教師が組織的に関わることで、柔軟な子ども理解や、ていねいな対応も可能となります。
 教師も、おとなしい教師、怖い教師、お茶目な教師、しっかりとした教師、失敗するけど頑張る教師など、教師の世界も様々な個性の人間がいるほうが集団としての力を発揮することができます。
 誰かが「大変だ、しんどい」と声を出すことが、時には必要です。
 そうしないと、教師各自がバラバラになって、悩みを抱かえ込みながら孤立感を強めるだけの職員室になってしまいかねません。
 頑張り過ぎて、限界になる前に「しんどい」と言える温かい職員室の人間関係をつくることが、辞めたいと思うほどの危機を乗り越えるための第一歩となるのではないでしょうか。
(
新井 肇:1951年生まれ、埼玉県公立高校教師を経て、兵庫教育大学教授。カウンセリング心理学を基盤とした生徒指導実践の理論化、教師のストレスとメンタルサポート等を研究
)

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