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保護者とのトラブルが長期化するのは「初期対応のまずさ」と「感情的なもつれ」がほとんどである、どうすればよいか

 向山洋一先生が、理不尽な要求を繰り返す親たちを怪物にたとえて「モンスターペアレント」と命名された。
「モンスター」という言葉がこれほど広がったのは、もはや社会的に見過ごせない深刻な問題になっているからだろう。
 最近は保護者から、常識はずれとしか言いようのない抗議や要求で、学校運営をめちゃくちゃにしてしまう事例を耳にするようになった。
 そこで私は次の4つの項目に当てはまる親をモンスターペアレントと定義した。
(1)
学校や教師にささいなことで文句を言う
(2)
延々と抗議し、攻撃的な要求をする
(3)
学校の教育計画が滞り、子どもに悪影響が及ぶ
(4)
教師が病気や休職に追い込まれる
 彼らは、要求が通らないと、どんどん過激になっていくので厄介だ。
 たとえば、毎日のように学校に来て、校長や担任に「土下座しろ」「教師を辞めろ」と何時間も迫る。「子どもを登校させない」「裁判に訴える」と脅す。
 教師の中には、対応に悩んで病気になったり、辞めたりした人もいる。
 トラブルが深刻化、長期化するとき一番犠牲になるのは、子どもというケースが非常に多い。
 例えば、要求を聞き入れないと子どもを学校にいかさないというようなことや、教師が保護者対応に多くの時間を取られ、疲れ果て、他の子どもと向き合う時間が減ってしまうこともある。
 学校が安易にモンスターペアレントをつくり上げてしまうケースもある。
 教師が保護者をいったんモンスターペアレントと思い込んでしまうと、教師は自ら保護者を理解しようとする姿勢がなくなり、学校と保護者は敵対関係になってしまい、解決の糸口さえ見つからなくなることも多々ある。
 学校と保護者とのトラブルが長期化する多くのケースは「初期対応のまずさ」と「感情的なもつれ」がほとんどである。
 迅速な初期対応をするために必要なことは「少しの勇気」と「豊富な知識」と「コミュニケーション能力」だと、私は考えている。
 苦情対応の専門家の関根眞一は
「クレームにうまく対応できない教師が多い。これまで先生と呼ばれてきたわけですから、苦情を言われる側に立たされてしまうと、どうしていいか分かりません」
「頭を下げる経験も少なかったでしょうから、お詫びの仕方からして、うまくないのです」
「多くの教師が苦情で病んでいるのは分かります。しかし、苦情に対して不勉強であることも事実で、苦情の対応をもっと学んでほしいと、痛感せざるを得ません」
「教師といえども、苦情社会の中で生きていくためには、苦情対応能力を自分自身でスキルアップすべきです」
「解決の道は、経験とともに、対応に必要な知識を知ることです」
と述べています。
 苦情の初期対応で大切なことは、かまえないで自然に対応することである。
 とにかく、保護者の主張に対して一定の理解をしようとする気持ちが必要だと思う。
 理不尽な要求と思っても、そのような要求が起こる背景を考える必要があるのだ。
 そして、謝罪の必要性や寄り添う必要性、説明の必要性を考える。
 人間は誰しも怒ったり泣いたりするときは、それなりの負担が心にかかっているはずだ。
 私が対応した様々な事例の経験から考えると、なぜ、目の前の人は怒っているのか、泣いているのか、何となく気の毒に思えてくる。
 たぶん、そのとき私自身が相手の気持ちを受け入れようとする作用が働いているのだと思う。それが微妙に相手に伝わるのか、相手の感情も少し落ち着いていくことが多いようだ。
 学校が苦情に対応しようとするときに、苦情の内容が正当なのかどうかの判断をする必要がある。
 その判断の根拠になるものに対する知識がなければ判断のしようがない。私は判例を参考にすることがよくある。
 苦情の初期対応に必要なものはまさしく「豊富な知識」ではないだろうか。
 つまり、教育に関する専門的な知識はもとより、法令もこれからの教師にとって大切なツールになると思われる。
 教師はとかく法規法令にはうとい。一通り教育法規を心得たうえで、教育活動に根拠をしっかりもって取り組む必要があるのではないだろうか。
 子どもへの教育方針の違いや教育に対する価値観の違いをぶつけてくる保護者が増えている。
 それに対して、どのような根拠で、どのような方針でということを明確に答えられるようにしたいものである。
 単に教師自身の教育理念や価値観を押しつけるだけでは、もともと理念の違いから苦情を言っている保護者にとっては、違和感とともに隔たりを感じるばかりで、これではお互いの考え方が違うということを確認しただけのことになってしまう。
 教師は感情管理をしなければならない感情労働職である。
 特に、保護者との初期対応のときは、どのような言葉を浴びせかけられても、その場に必要な感情表出を必死で感情管理をしなければならない。
 このような感情管理は、これからの教師に求められるスキルのひとつではないだろうか。
 問題がこじれてから対応しても対症療法的なものになってしまう。保護者の無理難題を封じ込めるということではなく、学校と家庭が信頼し合うための対応策が必要なのではないかと思う。
(
西尾隆司:豊中市教育委員理事
)

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