教師にできることは、荒れている生徒の精神的な自立をサポートすること
東京での中学教師歴はすでに20数年。若々しい表情の割に髪の毛は全体が白くなりつつある。
子どもの抱かえているストレスを憂いている。中学生の荒れもまた、ストレスが生み出しているのではないかと。
そのために教師ができることは、生徒の自己決定権を認めること、思春期における精神的な自立をサポートすることではないかと、次のように述べている。
「子どもが、あるべき姿からはみ出したら、直させる」という取り組みをやったが、うまくいかなかった。
子どもたちに直させると一度はきちんとするんだけど、また戻ってしまう。モグラ叩きみたいなものです。
表面的に柔順にしているから許してしまうんだけど、それは子どもの本音ではないんですね。子どもは「謝らないと帰してくれないじゃん」と言う。
よく言うんですけど、教師の側の「指導したつもり」、子ども側は「聞いたふり」ってね。
そのうえ問題だったのは、教師と子どもとの関係が悪くなっていったことです。
怒ったり、説教したりを繰り返すたびに、開き直るようになっていく。次から次へと問題が起きて指導すればするほど子どもたちは悪くなっていった。
これじゃ、ダメだと思いました。教師が考えている「あるべき姿」がズレている、と考えた。
で、発想を転換して、子どもたちの現在のあるがままの姿を受け入れていこうと。
それと、子どもが問題を起こしたときにこそ、子どもとの対話が成り立つということ。
ふだん、子どもの考えていることを聞こうとして「ちょっと話そうよ」と言っても「え、何もやっていないですよ」で終わり。
それが、事件があると「どうして?」と尋ねられる。そこから子どもが何を考えているのかが聞けるわけです。
子どもと話すときに、とくに注意したことは、問題を起こした生徒に、なぜダメなのかをこんこんと説明したり、指示したりはしないようにしよう、と。
あくまでその子が自分で結論を出させるようにサポートしていくことです。その子の問題解決力を引き出す。
例えば、誰かが友だちを殴った。まず、その子に
「どうして殴ったの。きっとわけがあったんじゃない」と聞きますよね。
すると「ムカついてた」と答える。
「どうしてムカついてたの?」
「関係ねえよ」
「いいだろ、教えてよ」
そのようなやり取りをするうち
「朝、家を出るとき、うちのババアがムカつくことを言ったから、むしゃくしゃしてた」
従来なら、ここで「何言ってんだ!」となったところですが、そこからさらに聞いていくわけです。
「じゃあ、あの子は何も関係なかったんだね。きみがそんなことされたら、どう思う?」
「ムカつくよ」
「今度、彼はきみが近づいたら逃げるよ。それでもいいの?」
「もうしねえよ」
形だけで謝るより、まずは「やらない」と結論を出したことが大事だと思うんです。
またやることもある。それは仕方ない。でも、繰り返していくうちに、最後は、こんなことしたら友だちなくしちゃうなって気づきますよ。
中学校の教師なら誰でも経験しているでしょうけど、どんなにグレてた子でも30歳を超えて大人になると、たいていは分別のある青年になっていくんですよ。
全員とは言わないけど。中学校のときに問題児だったから先の人生が決まるなんてことは絶対にない。
それを僕ら教師は知っていながら、それでも鋳型にはめようとするんです。
僕は、あまり怒鳴らなくなりました。昔は怒鳴ってましたよ。
でも、長い目で見ると、怒鳴ることで良いことなんて何もないと思ったからなんです。
最近で怒鳴ったのは、去年2回、今年1回。
ドアを蹴って、別のクラスの授業に入りこんだ子とやり取りしている最中、つい怒鳴っちゃった。
すると、僕の話がその子には入っていかないのね。そのときは、別の先生が仲介してくれて、やっと話してくれた。
あとで反省しましたよ。怒鳴っても、こっちの声が届かないと意味がないんです。
相手が心の受信機のスイッチを入れないと。
教師が子どもに、スイッチを入れてもらうような作業をしないといけない。
怒鳴ることで行為が改まるのは、単にびっくりしてやめるだけですよ。
「怒鳴るにしても、真剣に怒鳴れば通ずる」と言う人もいるけど、僕はそうではないと思っています。
きつく叱るとすぐ結果が出るために、怒鳴る側の自己満足になっていることのほうが多いんじゃないですかね。
(宮下 聡:元東京都公立中学校教師。都留文科大学教職相談システム相談員)
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