仕事が趣味なら人生は天国だ、私は教師としての仕事を趣味にするように努力してきた
私は教師になりたくてなったわけではない。母親が私を田舎に引き止めるために「教師になってくれ」と言われてなったのである。
大学に入って教育の勉強を始めてみると、なかなか面白い。それに、小原国芳学長の人柄と講義の面白さにとりつかれた。これで完全に「教師になる」ことに決心がついた。
教育実習でお世話になった先生が、これまた人格者で私は深く尊敬の念を持った。その感化を受けて、社会科へのめり込んでいった。
教育実習に行って初めて専門性に目覚めたのである。それに、子どもと遊ぶこと、触れ合うことの面白さ、楽しさを実習で味わった。
教育実習で、すばらしい先生とかわいい子どもに出会い、教師になることに喜びを感じるようになった。
教師になって担任として出発してみると、教育実習のときに感じたような楽しさはなかった。思うように子どもは動いてくれず、悩みばかりつのる日々であった。
尿の色が変わり、体調が悪くなった。食欲もなくなり食べ物を胃がうけつけなくなった。翌日は、体中が黄色くなり学校を休んだ。
この時「教師という職業は、私の体に合わないのではないか」と思い、学校をやめたくなった。教師になって3か月目のことである。
気分転換と趣味と子どもと仲よしになるという実益を兼ねて、月2回くらい、日曜日に子どもたちとあちこちへ出かけるようになった。これで気持ちが変わり、体調もよくなってきた。
社会科の研究が面白くなってきた。少し勉強して授業を行うと、子どもたちの反応が違った。子どもたちのためにも勉強しなくては、と考えるようになった。
バイクや車を購入して取材に出かけるようになった。これが楽しくてしかたがなかった。取材したところをスライドにしたり、資料にしたりして、授業の改善に取り組んだ。
社会科の教科書にでている事例地へは、ほとんどでかけて取材した。自分で歩き、調べ、体験したことの中から「これは面白い」と思うものを教材化して、授業に提示した。今考えるとこれが教材開発だったのである。
取材して面白い事実を見つけて提示すると、子どもたちが喜んでくれる。これがうれしくて、また取材に出かけるということを繰り返した。これが、私の「生き方」になっていることに気づいた。
教材を開発しては授業を行い、授業をしてはその実践の事実を書くようになった。
人間は、その時その時「楽しい、面白い」と思うことしか、しないものである。「楽しい、面白い」と思うことが、教師のするべきことと結びついたのがよかったし、幸運であった。
教師として活動することは「子どものためになる」「子どもとかかわる」ことにならなければ意味がないし、価値もない。
私は、常に「子どもを喜ばせたい」という願いをもっていた。このために「自分は今、何をすべきか」というように考えてきた。
今すべきことが、自分にとって「楽しいこと、面白いこと」になるように努力してきた。これを切り離さないように気をつけてきた。
つまり、趣味と実益を切り離さず、一緒のものとしてやるように努力してきたのである。
私は、教師という仕事を「趣味」にするように努力してきた。子どもを教育することは、楽しいことだ、と考えるようにしてきた。
「考えるようにしてきた」ということは、楽しいばかりではなかったということである。それどころか、苦しいことや困難なことのほうが多かった。
しかし、この困難なことや苦しいことを乗り越えたときのうれしさは、たとえようがなかった。困難なことに出会うと「うれしいことが待っている」というように考えてきた。
こういう努力をしていると、誰かが、どこかで見ていてくれることを知った。
わずか2ページの小文を一生懸命に書いた。知られるような雑誌ではなかったのに、明治図書の編集長から連載してくれと言われた時は、本当にびっくりした。
公立小学校に9年勤めた後、2つの附属小学校へ25年勤めさせていただいた。誰かが、どこかで見ていて、入れてくださったのである。
人を育てることほど楽しいことはない。物はつくってもなくなるが、人はどんどん成長していく。特に、子どもは大きく成長する。将来、どんな人になるか楽しみである。
私は「仕事を趣味にする」ようになった。
「仕事が趣味なら人生は天国だ。仕事が義務なら人生は地獄だ」という言葉がある。
私は「仕事が趣味だから仕事をすることが一番楽しい。いくら遊んでも、私の仕事をする楽しさには及ばない」といった、心境である。
(有田和正:1935-2014年、筑波大学付属小学校,愛知教育大学教授、東北福祉大学教授、同特任教授を歴任した。教材づくりを中心とした授業づくりを研究し、数百の教材を開発、授業の名人といわれた)
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