教師は、自分を変え、元気をつくり出そう
私の率直な感想では、一人ぼっちの教師や他の人とあまり交流のない教師は、どうしても暗さがただよっている感じがしてなりません。
これは教師にとって決してよいこととは思えないのです。なぜなら、子どもは暗い教師をきらいますし、保護者も忌避しがちです。また教師同士でも、前向きなはずんだ関係をつくりにくくなるからです。
子どもたちは、とりわけ先生の明るい元気な顔を求めているのです。
教師の中には、生まれつきなのだから、しかたがないとあきらめたり、一人で悩んでいる人が少なくありません。
私はそういう人たちに「子どもたちのために、自己改造の努力を。努力すれば明るさを身につけられるのですから」と強く言いたい。
例えば、つぎのようなことを工夫すると、相手に明るさが伝わるのです。
(1)子ども、保護者、同僚教師と対話するときは、必ず相手の顔(目)を見ながら話すといい。
(2)相手の話に共感したときは「ふんふん。なるほど」というように、うなずきながら聞くといい。
(3)自分が話すときは「語尾」を上げて話すとよい。感激が大きく伝わります。
語尾を上げて話せば誰がやっても相手に明るい雰囲気を伝えます。
この話を講演でしていたら、20歳代の女性教師が講演を聞いた後、
「鏡を見ながら、一生懸命にやってみたんですよ」
「お風呂の中で、ひとりごとのように言いながら練習してみました」
と、明るい声で話してくれました。努力したことが、自己改造に結びついたというわけです。
さらに暗さの克服には、相手の心にひびく話になるように内容のくふうをすることも必要です。
相手に内容がよりよく伝えられるようになれば、人と人との交わりに抵抗がなくなり、孤独感や対人ぎらいも克服できるようになるからです。
それには、他の人の話を注意深くみつめることが大切だと思います。
他の人の話を聞いて、どのような内容を選び、どんな組み立てをし、話すときのメリハリをどうつけているかなどを、注意深くみつめるとよい。
その意味では、先輩や同僚教師は「生きた教科書」としての存在価値をもっていると思います。
私も、先輩や同僚教師からたくさん学びました。「すばらしい」「心を引かれた」と感じさせられた教師には、話す内容に次のようなポイントがありました。
(1)感動的なエピソードや子どもの心を引きつける身近な題材を選んでいる。
(2)結論を先に話し、だらだらと話さないで「短い」話をつなげ、よぶんな部分は省略して、中心となることをもりあげている。
ということです。これは、教師の日常の授業や生活指導にも必要なことだと思いました。
例えば、教師が教室に入って、黒板が汚れていたとき、どう話せばよいのでしょうか。
(1)よくない例
「ほら、黒板が拭いてないけど、黒板係は誰なの」
「早くきれいにしなさいよ。黒板係になったら、責任をもってやるように、いつも言っているでしょ」
(2)よい例
「あれ、黒板の係は忙しかったのかな。いつもより汚れているね」
「みんなそう思わないか?」
「先生が拭こうかね。それとも黒板の係の人にやってもらう方がいいかな?」
両者を比べてみると大差はないようですが、受けとる側の子どもたちに聞いてみると、ずいぶん違うようです。
子どもたちは、(2)の方が「聞きやすい」「やさしい」「明るい感じ」だと言うのです。
子どもの意識を引きたてるようにくふうされ、結論をさきに、歯切れよく、よぶんなことを省く話し方になっているからです。
教師と子どもとの結びつきをつくるには、教師の説明などをエピソード(魅力的な小話)風に伝える工夫をするもの大事なことです。
(坂本光男:1929-2010年、埼玉県生まれ、元小学校・中学校・高校の教師。教育評論家。日本生活指導研究所所長・全国生活指導研究協議会会員)
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