子どもを教える仕事をする人に絶対必要な心構えとは何か
当時、生活指導主任をしているA先生の学級の前を休み時間に通ると、教卓のところに子どもたちが何人も群がっていた。笑い声がいつもおきていた。
群がっている子どもたちはいつも決まっていた。それはクラスで一番勉強ができない子。みんなに嫌われている子だった。
A先生のひざの上にいるのは、決まって「できない子」であり「嫌われている子」だった。
勉強のできる子をひざの上にのせていることはなかった。
ある日、私は「A先生は、いつも子どもがいっぱいいますね」と声をかけた時、初めて所信を語った。
「勉強のできる子や人気のある子は、これから先の人生で、いつだって脚光をあびたり、人から大切にされたりするんだ」
「だけど、クラスでは最下位のような子は、今大切にしてやらねば、再び大切にされることは、ないのかもしれないんだ」
「今大切にしてやって、人生のバランスはとれているんだ」
私はそれ以来、心の中に「教師として、子どもを大切にしているかどうか」という明確な判断基準が加わった。
クラスで最も嫌われている子がひざの上に来るような教師なら「子どもを大切にしている」と私は判断する。
口先だけ、うまいことを言う教師ではだめだ。子どもは敏感なのである。内心「嫌だ」と思っていることは相手にも伝わるのである。鏡の原理が働くのである。
「最も嫌われている子どもがひざの上にのる」ことは簡単ではない。どうしても通過しなければならない心の革命を必要とする。
それは、次のことである。「いかなる状態のいかなる考えの子も、すべて暖かく包み込める」
教師は人を教えて育てるという恐ろしい仕事をしている。
人を教えたり、人を助けたりする仕事の人が、絶対必要な心構えがある。
それは、子どもを「包みこめる」ということであり、「暖かく接することができる」ということである。
「ぼくは先生なんか、大嫌いだ」と憎たらしく言う子をも、なおも包み込まなければならない。
これが教師という仕事の宿命なのである。
子どもたちのすべてを受け入れて、包み込み、そしてさらに「子どもの可能性を伸ばそうという努力」が重なった時、子どもは別の表情をみせるのである。
(向山洋一:1943年生まれ、元東京都公立小学校教師、教育技術法則化運動代表を務めてきた。教師を退職後、TOSSインターネットランドの運営に力を注いでいる)
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