学校の教頭・校長の醍醐味とつらさ
東京都内の公立中学校で5年間教頭を務めた後、45歳で校長となった。風貌もかなり若々しい。新任校長ということもあって、教職員とのコミュニケーションに悩む日々が続いている。インタヴューしてみた。
教頭になれば授業を持つこともありませんし、楽かなと思っていました。ところが、教頭は忙しい。調査など、とにかく事務処理が多いんです。
例えば、どこかで事件が起きると、すぐに関連の調査依頼がくるし、いじめなどの飛び入り調査がけっこうあります。
でも教頭の仕事で苦労するのは、いかにして校長の考えていることを教職員に浸透させるかです。校長と教職員の橋渡し役ですね。それが教頭の一番大事な仕事だと思うんです。
例えば、私が教頭として赴任した学校では研究発表することが決まっていた。前任の校長が強引に引き受けた。ところがそれにものすごい反対がありました。
赴任してみたら、当の校長も教頭も転任してしまい「えっ、そんなのあり」って感じでしたよ。
研究発表に賛成する声をうまく引き出すために「あの研究発表どうする?」と飲みに行ったときに声をかけ、水面下でずいぶん動きましたね。
やっぱりふだんの人間関係が大切なんです。それでなんとか研究発表にこぎつけることができました。そうした役割を果たさない教頭も多いようです。
校長から「あの先生は遅刻が多いから注意してください」と言われれば、自分より年上の先生でも注意します。
一方、校長の仕事というのは学校をあずかる立場ですから、ビジョンをしっかり持つことが大切だと思います。
学校を運営するうえで、決断すべきさまざまな局面が出てくる。そういう意味で、校長は力量がないとできない。
幅広い知識が必要だし、広い視野に立った見通しも持っていなくちゃいけないと思うんです。
例えば、以前、妊娠していた先生が具合が悪くなって入院したことがありました。法的な知識があれば「こういう場合は妊娠初期休暇があるんですよ」と教えてあげられる。
相談を受けたときに、パッと答えられれば、教職員は管理職に対する信頼が持てるんですよね。
それに自分の学校だけ見ているんじゃダメだと思うんですよ。教育界の流れや、地域の動きなんかも見えていて、そのなかで「さて、うちの学校はなにができるか」と。
そんなビジョンが語れなければ、先生方もついてこないんじゃないでしょうか。
私は管理職になろうなんて、全然思ってなかった。「管理職に、もっとしっかりしてほしい」と、生意気に思っていた。
でも思っているだけじゃなくて、自分でもやらなきゃと思って、学年主任、生活指導主任、教務主任と、ひととおり、役職がつくものはやった。
あるとき担任から外れて暇になったとき、校長から「研究会に参加しないか」と、声をかけられたんです。これが面白かったんです。
研究会には、私のような教職員のほか、校長、教頭、指導主事なども参加していました。私は古臭い、保守的なものと思っていましたが、ところが現場よりもはるかに進歩的だっんです。
それで考え方が変わってきたんですね。それまで、管理職にしっかりしてほしいと思っていましたが、自分でやるべきじゃないかと考えはじめたんです。
でも、正直言って、管理職になろうと思った本当の動機は、飽きちゃったんですよ。学年主任も生活指導主任もひと通りやって、毎年同じことの繰り返しで、子どもたちを送り出していくことに飽きちゃったんです。
それと部活動ですね。体力的にきついのと、勝ち負けの世界にはまっていくことへの疑問。とにかく何か新しいものに目先を変えてみたかったんだなぁ。
管理職の醍醐味ですか、うーん、教頭のときは感じてましたけどね。教頭ってクラス担任と同じで、いろいろな先生をまとめていく面白さがあるんです。
みんなの気持ちが一つになってウワーッとせり上がっていくときがある。そういうときはやっぱり面白いですね。
でも、校長の醍醐味というのは、私はまだ感じたことがありません。今は胃の痛いことばかり多くて。なんとか先生方の理解を得たいなとは思っているんですけど。
(東京都の公立中学校男性校長)
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