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学級の子どもたちには能力に差がある、みんなを生かすには、教師はどのように発問し、子どもの答えにどう反応すればよいか

 学級の子どもたちには、能力の差が、歴然とあるのが現実です。発達がゆっくりで、理解がなかなか深まらない子もいます。
 発達は、待っていれば伸びていきますが、能力の差は、時間の経過だけで克服できるわけではありません。
 その意味では「すべての学級が能力的には複式学級である」というのが、私の持論です。
 私はたいてい、学級全体に投げかける発問は、平均的な学力の子に向かって問うことを想定しています。
 一人ひとりの能力や発達の差に、応じた問いをつくることは、不可能です。
 しかし、そもそも、落差があるからこそ、授業はおもしろくなるのです。
 さまざまな子どもがいるために、ある問いを出したときに、高い解から低い解まで多様な解が返ってきて、活発な討論が起きるのです。
 能力が高い子も低い子も、相互に刺激し合いつつ伸びていくことが大事であり、そのプロセスでお互いが鍛え合い、高め合っていくのです。
 差は、なくそうとしても、なくなるものではありません。教育は、子どもには能力の差があるという、当然の前提から出発すべきです。
 子どもの能力を同じようにそろえようとして、上の子を放っておいて、下の子ばかりにかまけるようでは、上の子はたまったものではありません。
 同じく、上の子だけ伸ばして、下の子を切り捨てて進むのでは、教育の名に値しません。
 落差は、最後まで残るのが現実です。
 それを認めたうえで、上の子も下の子も一緒に伸ばしていくのが、理想の発問であり、優れた授業なのです。
 子どもの中に落差があるのは事実ですが「この子はできる子」「あの子はできない子」と、先入観で固定的に見るのは避けなくてはなりません。
 子どもの成長はめざましく、いつどんなドラマを起こすかわかりません。
「この発問は、この子には答えられないだろう」と決めつけてしまうと、伸びる子も伸びなくなってしまいます。
 子どもたちには、いつでも大きな可能性を秘めた存在として、接していくことがたいせつです。特に、ものごとを受けとめるセンスは、必ずしも成績の優劣を反映しません。
 発問に対する子どもの反応をどう「受け」るかが、授業の良否を決めます。
 子どもの多様な反応や答のうち、どれを潰し、どれに注目させ、どんな討論を導くか、教師はその場で即決しなければなりません。
 発問は、教師の優れた受けをともなってこそ、意味をもちます。子どもの答えを受けとめる技量がなければ、教育効果は上がりません。受けによって発問も意味をもちます。
 そのためには、教師は知識のすそ野を広げ、知識の引き出しを多くもっていることが望ましいのです。
 私が五年生を担任していたときのことです。社会科の授業で、日本地図を見せてから「気がついたことを述べなさい」と問いました。
 発問としては、ごく低レベルです。子どもたちは何を答えていいかわからず、きょとんとしていると、ある子が手を挙げて「上下に長いです」と答えました。
 教室は爆笑に包まれました。当たりまえすぎると思ったのでしょう。しかし、私は
「すばらしい発見だね。上下に長いということは、つまり南北に長いという意味だ」
「日本という一つの国の中に、北海道のように寒い地域から、沖縄のように暑い地域まである」
「雪も見られるし、パイナップもとれるのは、そのためだね」
と、その子を大いにほめました。そして、
「他に気づいたことがありますか」と問うと、その子が再び手を挙げて「周りが海です」と言いました。子どもたちはまた笑い出しましたが、私は激賞しました。
「それも、すばらしい発見だ。日本は島国で、外国と陸続きではない」
「そのため、外国の脅威が及ばず、独自の文化が発展したのだ」
「鎖国が可能だったのも、島国だったからこそだ」
 発言した子が戸惑うほど、ほめたのです。子どもたちも感心し、うなずきました。
 その子は成績がよいほうではなかったのですが、この問答をきっかけに社会科の学習に興味をもち、学力もかなり伸びていきました。
(
野口芳宏:1936年生まれ、元千葉県公立小学校校長、植草学園大学名誉教授。千葉県教育委員会委員長職務代理者、日本教育技術学会理事・名誉会長、授業道場野口塾等主宰
)

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