子どもと関わり、成長していくのを見ることが教師としての私の喜びです
東京都内の公立中学校に勤務する20年目の美術科女性教師。美術教師は「風変わりな教師が多い」とは世の風評だが、この先生もかなりユニークで、元気印教師。話を聞いてみた。
私が教師になったのは「教師は時間があるから自分の絵を描ける」と思ったから。じつは大間違いだったけど。
でも今は自分の作品を描くより、子どもに描かせる才能のほうがはるかにあると思う。
ちょっとアドバイスしたら「あらら、この子、どうしちゃったの?」と思うくらい、いきなり二段階ぐらいうまくなっちゃうことがあるもの。
そういう意味では、やっぱり私には教師が天職なんだと思うわ。
私、中学教師って「おいしい仕事」だなって思う。ちっちゃな子どもだった子が3年間の間に一人前になっていく姿を目の当たりにする。
しかも、家族にも見せない顔を、私たち教師は間近かでみることができるんですよ。
中学時代って精神的に不安定なぶん、一生のうち一番キラキラ輝いているときじゃないかな。
たとえば、すごい感性を持ってて、将来どんな作家、どんな芸術家になるんだろうって子がいる。
そういう子を見ていると、きっと私たち教師だけが、その子の一生のなかで一番の輝きを見ているんだなって思うんです。
「最近、教師と子どもは信頼関係がないのでは?」なんて問われても、私にはなんとも言えないな。
だって、子どもとの関係なんて、それこそ一人ひとり、みーんな違う。生徒も親も3年ごとに変わるでしょ。
でも、私は子どもたちの本質は、どの学校でもそんなに違わないと思うんですよ。
やっぱり、可愛がられたい、評価されたいという気持ちは同じだと思う。ただ、その表現の仕方が違う。
中学生といえば思春期まっただ中。一年生のときは緊張感もあって大人しくても、二年生になると反抗期で生活が乱れたり、やる気をなくしたり、悩んだり。三年生になって受験体制に入るのが最近は遅い。
子どもたちってね、あるとき教師を乗り越えていく瞬間がある。たとえば、教師の意図を超えていい企画が生まれたり、あっと思うような行動をすることがあるんです。
それと「つぶしがきかない」というかな、生徒指導の方法として、一度失敗させて、自分たちで考えさせるという方法があるんですけど、今の子はそれができないんですよ。失敗するとシュンとなっちゃう。だから生徒との会話でもすごく気を使う。
私は、生徒との関係に一番気を使っているんじゃないかな。なるべく子どもを追いつめないようにね。
どんなふうに話すか、言っちゃいけない言葉は何か。その子との対話のなかで素早く嗅ぎ分ける必要がある。
例えば、受験の前日に夜遅く生徒から電話があって、寝ぼけまなこで電話にでると「先生、明日の試験に行けません」と。
最初の1,2分が勝負で、まず気を落ち着かせるために、私は「何があったか最初から話してごらん」と、その間にこっちはどう言うか考えるの。時間かせぎね。結局その子は説得されて受験しました。
そんなふうに落ち着かせるときもあるし、場合によっては泣かせることもある。
子どもへの対処は毎回違うんですよ。それがうまく当たると「ヤッた」という快感があってね。
私は、いつも「基本的に、あんたが好き」って態度で生徒に接している。
なかには合わない生徒もいますよ、合わない生徒に合わないことを悟らせないために、相手のいいところを探して「好き」になる努力をしますからね。
だから、生徒がいやで教師を辞めたいと思ったことは一度もないな。
私は、けっこう生徒たちと人生を語り合っちゃうんだよね。放課後とか委員会の後とかに。
教師と生徒の関係って不思議でね。ときには恋愛関係よりも深いつきあいがあるんですよ。すごく深いむすびつき。なんていうか「あうん」の呼吸なのね。
いわば会社でチームの仕事をしていて、有能な部下を持った上司の気分なのね。
私は昔から、クラス担任だけじゃなくて、生徒会とか委員会とか、いくつも担当しているの。なんでかといえば、面白いから。
それぞれの子どもへの関わり方が違うし、生徒を動かすというか、一方的な命令や管理じゃなくて、いろいろ指導していくうちに、こちらの意図を裏切って育っていく姿を見るのは本当にうれしいですね。
(東京都公立中学校の美術科女性教師)
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