教えにくい難しい子どもが今は増えてきています、子どもが変わるハッピー・コミュニケーションとは
コミュニケーションにつまずきがある子どもに個別指導するだけでは、指導の効果は上がりません。
その子とかかわりあっている、まわりの子どもたちへの働きかけも必要になってきます。
担任の先生から「どう対応したらいいのか」という質問を受けることがあります。私は次のような話をします。
コミュニケーションのつまずきは、やりとりやかかわり合いの最中に起きるため、立ち止まって、整理して、子どもたちに返してあげることができません。
そこで、エピソードとして集めておきます。
集めたエピソードの中から「どんな場面でよくつまずいているのか」「どんな言葉かけにうまく対応できていないのか」といった事柄を見つけていくのです。
つまずきの傾向と対策をいっしょに考えていくようにします。
つまずきの原因を子ども側に求めがちですが、ちょっとした大人側の配慮で、その場面を乗り越えることができるのです。
担任の先生にとっては、その子のためと思ってとった行動が、逆効果になったりすることもあります。
例えば、元気づけようとかけた声の大きさに驚かれたり、スキンシップを図ろうとしたらかえって嫌がられたりすることもあります。
今は、先生から見ると「教えにくい子ども」、保護者から見ると「育てにくい子ども」が、けっこういる時代です。
そんな子どもたちに共感し、教師と保護者が手を組んで支援していくことができたら、どんなによいでしょう。
私がこれまで担任の先生方と考えてきた傾向と対策のいくつかを紹介します。
1 口調を変えて、子どもたちに呼びかける
相手の耳に届きやすい声、心地よく聞こえる声があります。
ゆっくり、高いトーンの声は、相手の警戒心を解き「聞こうかな」という気持ちにさせます。
子どもの反応が薄い、指示を出してもバラバラという場合は、教師の語気が強く、早口になっているためかもしれません。
また、小学校高学年に通じる言葉づかいが低学年には難しい場合があります。
例えば「集合、整列」より「ここに集まって、並んでください」のほうが低学年には通じます。
それから「名前は歌うように呼ぶといい」とも言われます。「鈴木くーん」と抑揚をつけて呼ぶと、子どもの耳に入りやすいでしょう。
口角を上げれば、一瞬で笑顔をつくれます。
明るい声は、明るい表情から。このように口調を変え、笑顔をつくるトレーニングをするもの一考です。
2 子どもたちに指示を出しても、その通りにならない
どうして言われた通りにしないんだろう、と思う場面が学校で繰り広げられています。
子どもには、具体的に言わないと伝わらないのです。
例えば「体育は校庭に集合!」と言っても、子どもたちは「朝礼台の前で整列して待つ」ことまで考えて行動していません。
指示を出すなら具体的に「誰が、どこで、いつ、何をする」を、簡潔で明確な言葉にしていく。すると、期待した状況に近づきます。
3 人の話を最後まで、静かに聞いていられない
「話は長い」とかんじさせてしまう話し方があります。
「だけれど」「なので」のような接続助詞でつないでしまうと、話に切れ目がなくなり、肝心なことが伝わりにくくなります。
文を短くして、接続詞で話をつなぐといいのです。要点を黒板に書くと、さらに伝わりやすくなります。
4 あいさつを無視する、慰めると反発をかう
先生が校門に立ち「楽しい学校は朝のあいさつから」と、子どもたちに声をかけることが行われています。
その時、気になるのは、あいさつを返してくれない子、目を合わさない子です。
「朝から機嫌が悪いなんて、家で何かあったかな」と心配になり、つい「元気ないぞ」と励ましたりすると、子どももますますかたくなにする場合があります。
声をかけても返事がないときは、目が合っただけでもよしとする。
目をそらす子には、いろいろな子どもに声をかけながら、一瞬でも目が合ったとき、ニコッとしてあげる。
「目をそらすのは、それだけこちらを意識している証拠だ」と思えばいいのです。
低学年、中学年の子どもには、スキンシップもお勧めです。
肩をポンとたたいて「おはよう!」、頭をなでて「今日も学校に来てえらいね」、子どもの目線までしゃがみながら、肩に手を置いて「どうしたの?」とか。
ただ、これが高学年になると難しい。下手に肩をたたこうものなら「セクハラ」なんて言われかねません。
また、泣いている女の子を慰めるつもりで男の先生が「何かあったの?」と声をかけたら、それっきり口をきいてくれなくなったという話も聞きます。
高学年の子には、声をかけていいものかどうか、まわりの子どもたちに聞いたり、養護の先生に連絡する、友だちに声をかけてもらうといいようです。
そういうちょっと難しい子どもが、今は増えてきています。
気づかって「ここが難しいの?」と声をかけると、それっきり何もしなくなったりする子がいます。
「先生は教室を回っているから、困ったときは声をかけてね」
と、授業スタイルを巡回型にし、歩き回りながら、それぞれの様子を見て声をかける必要性やタイミングを計るのも一案です。
そうしていると、やがて子どものほうから声をかけてくるようになります。
5 言葉づかいが乱暴で、いじめにつながりそう
子どもは流行語や短絡的な表現、「死ね、バカ、うざい」など攻撃的な言葉を使いたがります。
そういう言葉はひとことですむし、武器になるからです。
放っておくと、言葉の暴力はどんどんエスカレートしていきます。
「このクラスでは、こういう言葉は使わないし、私のクラスでは許しません」
という宣言を先生がしてくれると、子どもたちは意識するようになります。
また、保護者会でも、このような言葉は家庭や学校でも使わせないようにお願いします。
「口にしたら、そのとき、すぐに注意しましょう」と、大人たちが毅然とした態度をとらなければ、なかなか改まりません。
(阿部厚仁:東京都公立小学校教師、特別支援教育コーディネーター)
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