学校の異動は精神的に不調になる危険がある、どうすればよいのでしょうか
G教師は40歳代半ばのベテランである。異動先の学校では学年主任としてリーダー的な役割を期待されていた。
担任した学級は最も難しいクラスで、課題のある子が多数いたが、経験5年未満の若手教師中心の校内では誰にも相談できない状況であった。
初めての地域で、異動してきた直後で分からないことばかりです。
当然、仕事は時間も手間もかかるようになってきました。
こうした中で、学年主任として仕切るのには、大きなプレッシャーがありました。
4月下旬になると早くも学級経営に暗雲が立ち始めたのを感じるようになりました。
しかし、相談相手がいません。長い教師人生で初めて不安に襲われました。
G教師は高学年を担任することが多く、強い指導を持ち味として学級経営を進めてきました。
早い段階から規律を浸透させ、ルールを守らない子には少し強めの言葉で指導し、厳しさの中で、力を伸ばす学級づくりをしてきました。
それだけに4月に規律が乱れ始めたことに動揺したのです。不安で眠れなくなることがありました。
5月の連休明けには、明らかに数人の子どもが指導に従わなくなりました。
子どもたちのふざけた態度に、ますます厳しく指導しますが、厳しい指導が通用しないことへの焦りで、どうしたらよいのか分からなくなっていました。
1学期の保護者面談で「うちの子に厳し過ぎるのではないか」という声が複数の保護者から寄せられました。
そして保護者会で、一番手を焼いていた子どもの保護者がこれに同調し、あっという間にG教師を糾弾する場と化してしまいました。
G教師にとっては初めてのことです。その晩は、寝つけず眠りについたのは明け方になってからでした。
そして翌朝は身体が重く、強烈な頭痛に襲われ、起き上がれませんでした。1学期もあとわずかという時期でした。
学校を休み始めて数日後、病院で「適応障害」と診断されました。通院しながら自宅で療養することになりました。
これまで、教師として順調なキャリアを歩んできたG教師にとって、精神疾患となって出勤できなくなるとは、到底受け入れがたいものでした。
社会から取り残されている寂しさと焦り、何もできずに休んでいる自分への情けなさ、こんなはずはないと自分の現状を否定する思いが交錯し、葛藤する日々が続きました。
休み始めて2カ月ほどすると、現状を受け入れる気持ちが芽生え始めました。
徐々に症状は軽くなり、年明けの復職を考え始めました。
しかし、いざ復職を考えた途端、自分の置かれた立場が頭に浮かんできました。
言うことを聞かない子ども、大きな声で責める保護者、他人行儀な同僚。
教室に戻ったときの光景が頭に浮かぶと、再び不眠と頭痛に襲われました。
自分の指導スタイルが通じなかった挫折感はまだ生々しく、子どもとの関係が修復できるとは思えませんでした。
医師と話し合い、年度末までの休職を決意しました。
学年が変われば状況も変わる。新しい年度になったら、また一から頑張れるのではないかと考え、G教師は翌年度に復職しました。
異動は精神的に不調になる危険があります。どうすればよいのでしょうか。
学校を異動すると、前任校で得られていた自分への信頼がゼロからのスタートになります。
当たり前だった日常が、当たり前でなくなります。G教師のように対処しきれず、不適応に陥ることがあります。
わからないことは素直に認め、相談して教えを乞い、新たにキャリアを積んでいく気持ちを持つ姿勢が必要なのかもしれません。
初年度は、自分になるべく負担を課さないように心がけるとよいでしょう。
(真金薫子:東京都教職員互助会三楽病院精神科部長、東京都教職員総合健康センター長、東京医科歯科大学臨床教授)
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