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子どもの心に届く言葉がけの極意とは

 私は書店で目に留まった本「『AさせたいならBと言え-心を動かす言葉の原理』岩田修著、明治図書、1988年」に衝撃をうけました。その内容を簡単にまとめると、
 指示は直接的なものより、間接的なものがいいということです。
「先生の方をむいてください」と指導するよりも,「おへそをこっちにむけてください」と指導した方が効果的である。子どもたち,特に低学年の子どもたちを教師側に向けさせる,有名な指導言だ。
「大きな口をあけて歌いましょう」と指導するよりも,「熱いジャガイモをほおばるように口をあけて,声を出しましょう」全校合唱を指導する時に,こう指導すると,子どもたちの歌い方がガラッと変わった。これもまた有名な指導言だ。
「○班静かにしてください!」と指導するよりも,「△班の聞き方が素晴らしい。みんなにまねしてほしいな」と指導した方が効果的であること。
 これらの様々なパターンの「魔法の言葉」を明確に方向付け、価値付けをした第一人者が岩下修だ。岩下は,この「魔法の言葉」を「AさせたいならBと言え」と原則化し,多くの教師の指導言を変えていった。
 子どもへの指示は直接的なものより,間接的なものの方がよいということだ。子どもたちの心を「自主的にさせる」指示の開発こそが必要なのである。
 たとえば「忘れ物をしないようにしなさい」「進んで発言しなさい」と、いいたいことを直接いってもダメな場合が、圧倒的に多い。このようにいっても、子どもの行動は変わりません。
 いいたいことを直接いってもダメなのはどうしてか、まとめてみましょう。
 ダメなのは、「中身がわからない、必然性・必要性がない、何かの障害がある」からです。
 ではどうすればよいか。
(1)「イメージを持たせる」ことです
 中身がわからないというのは、具体的にイメージできないということです。
 たとえば、コーダーの指導をするとき、「もっときれいな音でふきなさい」と指示します。
 これではどうしていいかがわかりません。きれいな音とはどういう音なのか、イメージできていないからです。
 見本を見せればいいのです。イメージができます。聴かせればいいのです。まずは、きれいな音とはこういう音だということを教えなければいけません。そうすれば、きれいな音というのがイメージできます。
(2)子どもたちにとって「身近なものに例えて」指示をする
 きれいな音のイメージができても、それだけではダメです。どうやったらきれいな音が出せるかがわからないからです。たとえば、次のように指示します。
「シャボン玉を割らないように、そっとそっと少しずつふくらますようにふいてみよう」
 音がきれいになります。シャボン玉をふくとき、一氣に強くふく人はいませんね。そんなことをしたら、すぐに割れてしまいます。「すーっ」というようにそっとふきます。このふき方が、リコーダーのふき方と似ているのです。
 子どもたちが経験したことがあるもの、つまり、子どもたちにとって身近なものに例えると、子どもは変化します。
 私は「AさせたいならBと言え-心を動かす言葉の原理」の本を何度も何度も読み返しました。
 その内、私の中でおぼろげながら見えていた、子どもたちの心に届く「言葉がけの原理・原則」らしきものが、確信に変わっていくのを感じたのでした。
 岩田修氏は、本の中で、理想とする教師の言葉がけの要素として、次のように述べています。
(1)その子の頭の中に入って、10秒,20秒と時間が経過しても、ゆれることなく同一の像として、そこにある物。
(2)クラス40人の子どもの、どの子の頭の中に入っても、同一の像として、そこにある物。
 この2つを「ゆれないモノ」と定義する。
 そして「AさせたいならBと言え」の言葉を作り出す(Bの言葉を探す)方略として
「ゆれないものの提示により、Bの言葉を作る」
 そして、その「ゆれないモノ」とは「物、人、場所、数、音、色」である。
 また、岩田修氏は、大変多くの事例をあげておられます。
 やがて、私は自分の日常生活の中で何気なく感じていたものまではっきりと「あ、今の言葉は『AさせたいならBと言え』だな」と気づくようになっていきました。
 優れた言葉がけというのは、世の中にはたくさんあふれているものです。
(西村健吾:1973年鳥取県生まれ、鳥取県公立小学校教師。教育サークル「豆腐のような教師になろう」代表)

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