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問題を抱かえる子どもの保護者との話し合いのとき、怒りを買わずに協力を得る方法とは

 小学校3年生を担任したとき、要チェックのAさんという男の子どもがいました。
 対人関係が苦手で好き勝手なことをしたり、わざと意地悪をする。学習の集中力も知的面でもかなり低い。
 それに、Aさんをダシにして、自分もふざけたいという子どもがいます。
「A、何やってんだよ。だめだろ」と、追いかけっこが始まり、Aさんが泣かされて終わりになります。
 担任して早々に保護者から苦情電話が来そうです。
 私は今までに何度も保護者に「困った問題」を面談等で伝えました。例えば、
「最近、こういうトラブルがあります」と話し出すと、たいがいその後に
「でも先生、うちにも言い分があります」
「うちの子も嫌な思いをさせられているんです」
という話になります。
 教師がマイナスの情報を保護者に伝えると、保護者からもマイナスの訴えが返ってくることが多い。
 実は私の子どもに重い障害があります。自分の子どもが特別支援学校に通う子になって、思うことがいろいろありました。
 特別支援学校の多くの教師は保護者に
「お母さんの方が、お子さんのことを分かっていると思うのですが、学校での取り組みの中で、ちょっと相談したいことがあるのです」
というような感じで、提案をしてくれます。
 これは、耳に優しく、素直になれます。なかなかいいテクニックではないかと思います。
 問題を抱かえる子どもを育てた親なら、泣きたくなるような経験は一度や二度ではないでしょう。
 誰にも分かってもらえない、劇的に改善することもないと思える暗いトンネルのような毎日の中で「仕方ない。我慢するしかない」と、自分を慰めながら、必死でわが子と暮らしている人も多いと思うのです。
 以前、育児放棄をしているような保護者と、子どもの問題行動について面談したことがありました。
 そのときに、特別支援学校の先生の話し方を思い出し、相手の大変さをくみ取りながら話したら、いい方向に進むことができました。
 Aさんのお母さんに「Aさんのことでご相談があります」と伝え、学校に来ていただきました。そして、次のように話を切り出しました。
「最近、Aさんを注意してしまうことが続き、これが本当にAさんのためになっているのかと迷っているのです」
「そこで、Aさんに注意することのポイントをしぼり、今よりずっと減らしていきたいのです」
「お母さんが一番Aさんのことをわかっていらっしゃると思うので、どこにポイントをしぼればいいのかを相談させてほしいのです」
「できれば、Aさんにわかりやすく、すぐ効果が出やすい、まわりの子からもAさんの頑張りが見えやすいことにポイントを絞りたいのですが、どんな点がいいでしょうね」
 私がこう話すと、お母さんの表情も和らいできました。
 具体的に、どんなことをするのかを、二人で話し合っていきました。そこで決まったことは、
1 授業中の派手な妨害やフザケだけを特に注意する。
2 クラス子どもたちにもAさんに対する取り組みを伝え、頑張りを認めてくれるように話すこと。
3 授業以外にAさんのトラブルがあったら、担任に報告して担任が処理する。
(Aさんを利用するトラブルから守るため)
 さっそく、次の日、クラスのみんなに、Aさんのことを話しました。
「今、うまくできていないこと」
「支援するために、今、取り組みたいこと」
「クラスみんなの協力が必要なこと」
をクラスの子に話すと、少しずつ子どもたちのAさんに対する目が優しくなりました。
「Aさんは、仕方がない。あまりひどいときは先生が対処してくれる」
という共通理解が得られてきました。
 Aさんはみんなから、強く怒られることが減って、泣くことも減ってきました。
 お母さんは「家で学校での様子が聞けるので、以前より心配が減りました」と言ってくれました。
(日高きく代:東京都小学校教師)

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