学校にとってイチャモンと感じられる苦情であっても、親としての「思い」や「願い」が背後に透けて見えることも多くある
幼稚園の園長をしておられる方から「私の園では、こんなことがありましてね」と具体的な事例を次のように話し始められました。
その幼稚園では広い芝生で有名な公園に遠足を予定していたそうですが、予定日の二日前から雨が降り続いていたため、当日は晴れることがわかっていましたが、遠足を順延する決定をしました。
ところが、遠足予定日の夕方、ある保護者から
「なぜ、遠足を中止にしたんですか? 子どもがせっかく楽しみにしていたのに」
と、中止決定を非難する電話が幼稚園にかかってきたそうです。
保護者の方は相当な剣幕だったそうです。
園長さんは
「二日も前から雨が降っていたために、芝生も水分を含んでいて、とても弁当を広げて食べたり、遊びまわることもできないでしょう」
「大きなビニールシートを持ち込んでも無理なんです。ご理解ください」
と、懇切丁寧に説明を繰り返しました。
しかし、保護者は納得せず、園側の姿勢を批判し続け、結局は「なんちゅう園長だ」「困った親だ」という電話の切り方になったとのことでした。
私は話を聞きながら、
「どうして遠足予定日の夕方に園に電話をしてきたのでしょうか?」
「ひょっとしたら、子どもが母親のそばですねて泣いていたのかもしれませんよね」
「夕方の食事準備の忙しさの中で、子どもが遠足中止でダダをこねている。それをなだめすかすことができない母親」
「『そうだ、私がこんなにわが子をなだめたりしても、ちっとも効果がないのは幼稚園が遠足を中止にしたからだ』と思って、その感情をぶつけるかたちで電話をしてきたとしたら、どうでしょうか」
と水を向けました。すると園長は、
「そうですね。そう考えると、親の反応がちがってきたかもしれません」
こういった場合には、一通り相手の話を聞いたうえで、子どもの状態を聞くこと。
そして、幼稚園教師の経験をもとに、具体的なかたちで母親に、子どものなだめすかし方についてアドバイスをすることが肝要だろうと伝えました。
場合によっては、電話口に子どもを出してもらって、直接に話しかける方法もあるかもしれません。
そうすると、イチャモンで始まった会話が、問題が解決したようなかたちで電話を切ることができるように思います。
私が、多くの事例を集めて冷静に見直してみると、イチャモンのような形態をとりながらも、じつは別のところに親の願い(真意)が隠れていることがある。
むしろ、そのツボをおさえて対応すると、かなり異なった反応となっていくことが多いように思えます。
問題は、そういった冷静さを持ちえるだけの「ゆとり」と「体力」、そして粘り強い「気力」が学校側にあるかどうかです。
一人で判断せずに、近くにいる関係者たちで「距離を置いて見る」ことが必要でしょう。
一見すれば、学校側にとってイチャモンに近い内容と感じられる苦情であっても、じつは親としての「思い」や「願い」が背後に透けて見えることも多くあります。
学校側が当然と思っていることでも、保護者からすれば、わからないことはたくさんあります。
(小野田正利:1955年生まれ、大阪大学教授。専門は教育制度学、学校経営学。「学校現場に元気と活力を!」をスローガンとして、現場に密着した研究活動を展開。学校現場で深刻な問題を取り上げ、多くの共感を呼んでいる)
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