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動かない子、傷つきやすい子を支え、動かしていくための技法にはどのようなものがあるか

 動かない子、傷つきやすい危険域にいる子どもを動かしていこうという場合、熱意さえあれば、通ずるものでもない。
 熱意が逆にあだになる場合もある。別の常識が必要なのである。どうすればよいのでしょうか。
 長年の経験から得た、そのような子を支え、動かしていくうえでの原則や基本的な技法を次に述べたい。これはまさに経験知である。
1 押しつけない
 人は、押しつけや強制されていると感じると、反発し抵抗しようとする。それは、子どもでも同じである。
 心に傷を抱かえている子どもは、それまで支配されたり、虐げられていることも多く、支配されることや強制されることに敏感である。
 子どもが一番見ているのは、相手が価値観や方法を押しつけてくる相手か、自分をありのままに受け止めてくれる相手かということだ。
 押しつけられていると感じると「なんだ、それが目的か」と、そこで心を閉ざすか反発が生じて、前に進まなくなってしまう。
 ところが、教師も親も、つい結果を急いでしまい、期待通りに動かそうとすることが、どんなに多いことか。
 まず、本人の主体性を尊重するように働きかけ、こちらの期待で動かそうとしないということを心がけることが大事だ。
 自分の主体性を尊重してくれると感じると、子どもはその人に対して安心感を持ち、やがて信頼を抱くようになる。
 人は自分を尊重してくれる人を信頼するのだ。
 まずは、いったん、子どもの気持ちを受け止めてあげることだ。
 一呼吸おいて「そう。〇〇したいの」とそのまま返してあげる。
 すると、子どもはほっとして、その内側にある事情を語り始めるだろう。それに寄り添いながら、同じ目線で、一緒に解決策を模索したらよい。
 たいがいは、何か傷つくことがあって、現実を受け入れられなくなっているだけで、目の前の不満を整理していくと、自分の中に眠っている本音が見えてくる。
 たとえば「友だちに、いやなことを言われたけど、本当は好きだし、続けたい」などといったものだ。
 押しつけでなく、自分の主体性を尊重されていると思うことで、自分の問題について、その子なりの考え、折り合いをつける糸口が見えてくる。その後の良い行動にも結びついていくのだ。
2 否定的な判断や決めつけをしない
 教師や親の言葉の使い方に重要なポイントがある。
 傷つきやすい子どもに関わる場合は、言葉の微妙なニュアンスがとても大事になる。
 一言、声を聞いただけで、視線ひとつで、この人は押しつけてくる人だと、子どもはかぎ分けてしまう。もうそれで、シャッターを下ろしてしまうだろう。
 当の教師や親は、なぜ子どもが心を閉ざしてしまったのかに、気づいていない。
 もっとも子どもがカチンとくるのは、決めつける言い方をされることだ。
「あなたは、いつもそうなのね」「どうせ、そういうことだと思った」「そんなんでいいと思っているの」
 というような言い方に、自分を否定的に決めつけられていると、強い反発を感じる。
 その一言が逆方向を向く引き金になりかねない。
3 許容語を使う
 では、どういう言い方が、受け入れられやすいのだろう。許容語を使うということだ。他の可能性を排除しない表現のことだ。たとえば
「〇〇だ」ではなく「〇〇じゃないかな」
「〇〇に決まっている」ではなく「〇〇っていう気がする」
「〇〇しろ」ではなく「〇〇してみるのは、どうかな」
「〇〇するな」ではなく「〇〇って思うんだけど、どうかな」
といった、やや控えめな表現だ。
 断定的な言い方をすると、感情的な反発が沸き、言われた内容よりも、決めつけられたことへの怒りや不快さが先にたつ。そうなると、考えや行動の変化につながらない。
 控えめに言われると、反発よりも「そうかな」「できるかな」と、自身の中に取り入れて、考える余裕が生まれる。
 あとあとも、そのことが心に残りやすいのだ。つまり、この時点で、心の抵抗を突破している。
4 オープン・クエスチョンを活用する
 決めつけない言い方で、とても重要な技法がオープン・クエスチョンである。
 たとえば「どうして」「どうやって」「どんなふうに」と言うと話がふくらんでいきやすい。
 イエスかノーで答える質問というのは、訊問でも受けているような気持ちになり、次第に心を開く気持ちをなくしてしまう。わざわざ抵抗の壁を作っているようなものである。
 オープン・クエスチョンをよく使う人は、話を聞くのが上手である。 
 オープン・クエスチョンを増やすように心がけるだけで、子どもがよく話してくれるようになり、手にはいる情報も格段に増えるだろう。
5 本人の視点を重視し、最小限の言葉で反応する
 話を聞くうえで大事な技法は、こちらができるだけしゃべらずに、本人が話す時間を多くするということだ。
 大人が口を挟むと、子どもは伝えることをあきらめてしまう。
 できるだけ余分なことを言わずに、最小限の反応で、しかも、話しやすい雰囲気にする。
 そのためには、相槌やうなずき、顔の表情で反応したり、
「へぇ-」「そうなんだ」「すごい」「本当に」
 といった、意味のない言葉で応じるのが基本だ。さらに
「それでどうなったの?」「とうして」「どうやって」
 といったオープン・クエスチョンで話を掘り下げていく。
 こちらは、ほとんど何も言っていないのだが、本人はとてもよく話をしたと感じる。本人の視点で話を展開し、本音の気持ちも、そうしたやり取りの中から語られていく。
 ところが、押しつけになってしまいやすい人は、しゃべりすぎてしまう。自分がしゃべることが、子どもと話をすることだと勘違いしている人もいる。
 しゃべりすぎるということは、子どもではなく自分の視点になっているということだ。
 それでは子どもは受け止められたとは思わないし、意図を感じて反発するだけで、何ら好ましい変化は生じない。
 特に問題が起こったときは、教師や親はできるだけだまっていて、子どもがしゃべれるように方向づけをしないと、解決の糸口が見えてこない。
(魚住絹代:1964年生まれ、大阪府教育委員会スクールソーシャルワーカー。1982年法務教官となり、以後、福岡、東京、京都の少年院に12年間勤務。非行少女の立ち直りに携わる。2000年に退官後は京都医療少年院で音楽療法の講師となるかたわら、2002年から、大阪府の公立小・中学校に、スクールサポーター、家庭教育サポーターとして勤務。子ども、家庭、教師の相談支援をしている)

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