話術を習得する近道とは、話し手の根本的に大切なこととは何か
芸でも仕事でも、一人前のことができるようになるまでは「見習い」と呼ばれます。これは、「未熟なうちは、見て習いなさい」ということです。
あまり「教えてくれ」と言うものじゃありません。簡単に教わったことは、それだけ早く忘れます。
それに対して、教わってもいないのに、自分で一生懸命に見て身につけようとした技術は、いつまでも覚えているものです。話術もそうだと思います。
ですから、職業上の話術を身につけたいのであれば、まずは上手いと思う人の現場に行って、そばで邪魔にならないように見せてもらうのがいちばんでしょう。
表面的な言葉づかいだけでなく、場の「空気」を読みながらの対応、駆け引き、相手とあうんの呼吸のようなものを見て習う。
それをできるだけ早く、実践の中で試してみる。それが職業上の話術を習得する、いちばんの近道だと思います。
話は聞き手があきないようにしなければなりません。
落語もそうでしょうけど、我々は一応の台本がある話でも、お客さまの反応を見ながら変えていきます。
「かたい話が続いて、お客さまがちよっと疲れてきたな」ということがある。
そのときには息抜きになるような話をアドリブで入れます。
どんなに良い話をしていても、聞く人が途中で飽きてしまったり、疲れてしまったりしたら、何にもなりません。しゃべっていないのと同じことになってしまいます。
そういう場面をいかになくしていくかということが、大事なんです。
あえて人まえでしゃべるのは、より分かりやすく、面白く伝えるためですよね。話を上手にできるようにするには、まず、そういう意識が必要だと思います。
話し手の自信が話を生む原動力となります。
本当によく勉強したことというのは、自然と人に話したくなるものです。教師であれば、先生としての自信が、話を生む原動力になります。
生徒からどんな質問をされても答えられるように、あらゆる角度からそのことを勉強しておく。見識を広げておく。
そうすることでまた、より興味を持ってもらうための工夫、もっとわかりやすく説明するための配慮もしやすくなると思います。
よく勉強していて、自信があるからこそ、相手に応じて話し方や話の切り口を変えられる。
「今この話をしても分かりにくくなるだけだな」と思ったら、話したい知識でも引っ込めておく。そういうことが柔軟にできるようになるといいと思います。
自分が変われば、相手もかわります。
人間関係の基本は、自分が変われば、相手もかわるということです。
わかりやすい例で言えば、自分が敵対的な態度をとれば、相手も敵対的な態度で返してきますし、自分が友好的な態度をとれば、相手も友好的な態度で返してくるものです。
高座の上でお客さま方に話すのに、気を引き締めたり、少しゆるめたり、また引き締め直したりということはします。それによって、お客さまも集中して聞こうとしたり、肩の力を抜こうとしたりするんです。
その駆け引きは、舞台に上がる前から、もう始まっています。舞台に上がるとき、緊張した面持ちで歩いていくのか、それとも「やあ、どうも」という感じで出ていくのか。最初の言葉をどんなテンションで語り出すかも重要です。
厳粛な雰囲気で、話しだすまでたっぷり間を取って、重々しく語り出すのか、それとも軽く明るい声で、ニコニコしながら語り出すのか。それも話術の一部です。
何に基づいてそういう変化をつけるかといったら、一つには、どんな話をどういう風に伝えたいのかというイメージの違いでしょう。
もう一つは、場の「空気」です。場の「空気」が崩れていたり、堅くなっていたりすることがある。そのときには、なぜそうなったのかということも考慮に入れて、自分の出方を決めます。
話のまくらでお客さまの雰囲気をつかむ。
我々は「枕」の部分をしゃべりながら、その日その日のお客さまの雰囲気をつかんでいます。それから本題に入るんです。
少ししゃべってみる、お客さま方の反応を見る。またそれに応じて変えていく・・・・・・。
我々は、今日のお客さまはこうだなというのをつかみながら、お話の仕方を変えていきます。
枕は軽い世間話などをして、お客さまに肩の力を抜いていただこうということもであります。
あるいは、本題と少しずつ関係のある話をして、だんだんとお客さまを日常から講談の世界に引き込んでいく、そういうことにも「枕」を使います。
その人の生きざまが話の中にでます。
昔から「芸は人なり」なんてことをよく申します。芸には、その人が今、生きているすべてがでます。話というのもまたそうでしょうね。
その人の人生経験、年齢なりの声や風貌、やしなってきた知識、仕事に向かう情熱、そのときの熱意、人に対する思いやり・・・・・・。
ようするに、その人の生きざま全てが、話の中に出ます。これはなかなか大変なものです。だから、時間をかけて、人間の修業からしていきます。
話す人間に魅力があるか。
講談師は高座でしゃべって、お客さまに来ていただいて、お金をいただく商売ですから、厳しいところがあります。
話す人間に魅力があるかということが、そのまんま結果に出てしまう。言ってみれば、人間そのものが商品なんです。
(一龍斎貞水:1939年東京都生まれ、 講談師、人間国宝。「講談は守るべきものと開拓すべきものがある」が座右の銘)
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