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教師を診療する医師から見た、精神疾患に陥りやすい学校現場の特徴とは

 私が東京都教職員互助会三楽病院に赴任したのは1998年でした。
 これまで多くの教師を診療した医師の立場から見て、教師が精神疾患に陥ってしまう背景には、学校という職場の特殊性があると感じています。
 一般勤労者にとって「仕事上のストレス」の第一位は「職場の人間関係」で、全体の4割近くあります。
 人間関係のこじれは気持ちの切り替えが難しく、いつまでも心に残るものです。うまくいってない相手と顔を合わせると、さらにストレスが強まります。
 その結果、悩みが深まり、蓄積します。大きなストレスとなった結果、メンタルヘルス不調に陥ることもあります。
 その点で、教師ほど「人間関係ばかり」の職業はありません。
 教室では子どもと向き合い、その背後の保護者とも上手にコミュニケーションを取っていかなければなりません。
 職員室に戻れば管理職や同僚がいます。加えて、これらすべての人間関係が互いに絡み合っています。
 子どもとの関係がこじれれば、保護者との信頼関係にもひびがはいります。
 また、子どもや保護者との関係がこじれ気味のときほど、同僚・管理職との関係性の善しあしが教師のメンタルヘルスに大きな影響を与えます。
 同僚・管理職との関係性が良くないと、ちょっとした態度や発言が冷たく感じられたり、助言や指導が強いプレッシャーとなったりします。
 人間関係に取り巻かれ、ストレスとなり得る要素が多い学校現場ですが「業務そのものが人間関係」であることの難しさも、ストレスのもととなっています。
 農林水産業や第三次産業のほとんどが、物品や情報、金銭など、人間以外の要素のやり取りを目的としています。
 たとえ、やり取りする相手が人間であっても、人間自体が仕事の対象ではありません。
 人間関係で悩んでも、仕事中は本来の目的であるモノやコトに視点を移すことができます。
 教師の仕事は、子どもが相手とはいえ、教師の発した言葉以上にその本音を察し、人間性を見抜いて接してきます。
 子どもが本音を見抜いて本音で接してくれば、教師も本音で向かわざるを得ません。
 長時間、本音を隠せない場にいることで、本音を隠さず仕事をすることが、当たり前になります。
 この点が、建前でかわせる一般的な職場と違うところです。
 教職は、個々の独立性が高く、自由度が高い反面、一人ひとりがバラバラになりやすく、孤立化しやすい状況にあります。
 教師は常に本音ですごし、素のままの人間性があらわになりやすく、職場の人間関係が情緒的です。
 このため、職場の人間関係の良い面が現れれば、家族的な温かさに包まれ、悪い面が現れれば、容赦なさが出てしまう傾向があるよう思います。
 職場内の人間関係で不調になった教師を診ていると、心の傷が深く、回復しても職場に戻るのは不安、恐怖という人が珍しくありません。
 それはこうした特有の職場風土が影響しているように思われます。
(真金薫子:東京都教職員互助会三楽病院精神科部長、東京都教職員総合健康センター長、東京医科歯科大学臨床教授)

 

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